第56話

22時 白藤駅

「じゃあなこ! 今日は、ありがとう! また連絡するねぇ!」

 居酒屋白藤で、酔っぱらって知ったまで來未を支えながら、白藤駅まで歩いてなこ。

「ほら來未! 駅に着いたよ! はいコレあんたの荷物」

「ありがとう!」

 なこから荷物を受けった來未は、途中でなこに買って貰ったミネラルウオーターのペットボトルの蓋を開け、水を飲む。

「全く! 酔っぱらうまでで飲む奴がいる?」

 ここまで來未を支えて連れてきたなこは、來未に嫌味をぶつける。

 なこは、明日も仕事なので、ビールも2杯でやめ、残りは麦茶やノーアルコールビールを飲んだ。

 しかし、來未は、結局ビール3杯に、白ワインを2杯も飲み店を出る時には、なこの支えなしには歩けないほどまで酔っぱらっていた。

 なので、來未の酔いを醒ます為にも、20分掛けて白藤駅まで來未を支えながら歩いてきた。

「ごめんごめん。けど、お酒でも飲まなちゃやっていけないよ」

「……」

 來未の言葉に何も言い返せない。

 それ以上に來未の顔を見る事ができない。

 だって、いま、來未の顔を見たらきっと自分の方が泣いてしまう。

「くくくく來未!」

 來未が自分の両頬を思いっきり強い力で掴んでいた。

「なこ! そんな顔しない! わたしが総一郎さんに振られたんじゃあなくて、わたしが彼のこと振ったんだから。そんな事よりなこ! わたしのことばっかり心配してるけど、兼城君にいつになったら告白するの?」

 仕返しするかのように、なこに兼城の話題を振る。

 すると、なこの両頬がドンドン赤く染まっていく。

 それどころか……

「なななななんで私が兼城に告白しなくちゃいけないのよ!」

「えっ? だってなこ、学生時代からずっと兼城君に片思いしてたじゃあん!」

「そそそそそんな訳ないじゃあ! もう來未変なこと言わないでよ!」

 來未の左肩を力一杯、それも思いっきり強い力で掴んだ。

「痛った!」

「ごめん」

 來未の痛い発言にようやく我に返り、手を離し、うしろに一歩下がる。

 そして、來未に対して頭を下げる。

 そんな、なこに來未を怒ることなく寧ろ……

「なこは何も悪いよ! 寧ろ、悪いのは、変なこと言った私」

「來未は、何も悪くないよ! 悪いのは……來未!?

 來未が突然なこに正面から抱きついた。

(Grazie di tutto finora.(今までありがとう))

 なこに聴こえない様に日本語でも英語でもなく、イタリア語で別れを告げた。

 そして、別れの言葉を言い終るとゆっくり顔を上げ、なこに向かって悪魔のほほ笑みで浮かべながら……

「やっぱりさっきの私の言葉撤廃! なこ! 私をいじめた罰として、兼城君を今からroseのクリスマスイベントに誘いなさい! これ! 兼城君の新しいスマホの携帯番号! 兼城君、つい1ヶ月前にスマホを新しいのに買い替えて、その時、電話番号も新しいのに変えたらしいから! はい!」

 來未は、なこに、兼城の現在の電話番号を書いたメモを渡す。

 來未自身は、昨日華水を出ると決めた時で兼城を始め、自分と関わりのある(家族をのぞいて)人物の連絡先を消去した。

 しかし、消去はしたが、彼らの連絡先は覚えている。

「ちょっととと來未! なに、一人で勝手に話し進めてるの! やめなさいってば。ほら! 紙も返すから!」

 渡してきた紙をそのまま來未に返す。

 しかし、來未はそれを受け取らず、いつの間にか奪ったなこのスマホに、兼城の番号を勝手に番号を打ち込み始める。

「ちょっとちょっと來未! なに勝手に番号打ち込んでるのよ! 來未! あぁ……!」

 なこの制止も虚しく……來未は、兼城の携帯番号と何故か紙にメモしていなかったオレンジのIDまで打ち込む。

 そして、そのままなこの携帯から兼城の電話を掛け、それをそのままなこに返した。

「じゃあ、なこ! 私、バスの時間あるから! じゃあ、頑張ってねぇ?」

「ちょっとちょと來未」

 まだ! 心の準備ができていなかったなこは、來未の突然の行動に驚きながらも、もう後に引く事ができない。

 だって……

{もしもし……}

 電話口から兼城君の声が聞こえてくる。

「……」

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