第46話
※匠は、気づかなかったが手紙は本当は二枚重ねになっていた。
そして、これは匠が読むことがなかった2枚目
<2枚目>
匠さん。
いまから、ここに書く事は誰にも話していないことです。
なので、匠さんも誰にも言わないで下さい。とくに栞には。
古橋総一郎は、私の事を捨てていません。
彼は、優しい人です。そのことは私が一番よく知っています。
総一郎さんには、わたし以外に本命の婚約者どころか、来月式を挙げる女性なんて一人もいません。
あれは全部、彼が適当に作り上げた真っ赤な嘘です。
それどころか、私のことをただの遊びだと言ったのも、弁護士の仕事で疲れていてうっぷんがたまっていて、昨日は、それに寝不足も重ねって言ってしまっただけだと、昨日の夜、総一郎さん自身から謝罪のメールが届き、私も謝罪を受け入れるメールを返信し、和解しています。
ですか、一度壊れた信頼を取り戻すことはできない。そう彼に伝えて、今度は私の方から別れを告げました。
なので、結果的に、私が総一郎さんから捨てれたのではなく、私が振ったことになります。
匠さん。私は、今回の総一郎さんとの出来事の前にもう一人、別の男性も振っています。
その恋人の名前は、瀬野明希。
白藤国際大学時代の同級生で、同じ外国語学科のクラスメートでした。
彼がどんな人物なのか、詳しく知りたったら栞に訊いて下さい。
きっと、何でも教えてくれると思います。
そんなことより、私が、瀬野明希君出会ったのは、翻訳家を夢見た入学した白藤国際のオープンキャンパスでした。
私は、小さい頃から読書が好きで、日本語で書かれた本だけでは読み足らず、外国語で書かれた海外の本も、辞書などを使って独学で翻訳しながら読んでいました。
けれど、独学にはやっぱり限界があり、一冊の本を読み終わるのにかなりの時間を要してしまい、なかなか、新しい本を読むことができませんでした。
それでも、全ページ翻訳できた時の感動は大きく、疲れなんか吹っ飛んでしまいます。
そんな事をずっと繰り返していく内に、私の中にこれを将来の仕事にしたいという思いが生まれてきました。
そして、私は、その夢(翻訳家)を叶える為に、親元を離れて、白藤国際外国語学科に入学し、そこで瀬野明希君と出会いました。
しかし、私達の交際は卒業式間近で突然終わりを迎えました。
その理由は、卒業したら結婚しようと約束していた彼が、自分に何も言わずに、アメリカに語学留学してしまったからです。
それも、私がその事実を知ったのは、彼がアメリカに旅立ってから3ヶ月も経った頃でした。
そして、そのことをわたしに教えてくれたのは、彼の大学時代の親友で、現在「rose」で一緒に働いている兼城薪君です。
匠さん。匠さんも兼城君の事は知ってますよね? 私と栞が働くカフェroseのキッチンスタッフ男性スタッフです。
兼城君。……瀬野明希君のの親友なんです。
なので、私が、瀬野明希君と交際していた4年間、時間がある時は、大学内の食堂、もしくは大学内のカフェで兼城君、そして、栞を含めた4人でをよくランチ一緒に食べていました。
あと、これは余談ですが、わたしにroseの仕事を勧めてくれたのも兼城君です。
でも、そのおかげで、昨日までroseで働く事ができました。
その件に関しては兼城君には感謝しています。
でも、最終的に、私は恋人だった瀬野明希君の帰りを待つことができました。
それどころか、恋人がいるのに、他の男に乗り換え、その人と交際を始めてしまいました。
私は、2度も好きになった男性を捨てたんです。
だから、もう、どんなに好きな人が現れても、私は恋はしないと決めました。
そして、華水からもいなくなった、知り合いもいない、新天地で新しい生活を始めようと思います。
匠さん。お元気で。
さよなら。
七橋 來未
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