第40話
同時刻
「今日は、一日大変だったなぁ?」
兼城がキッチンで一人チョコクッキーを作っていた頃、宇野、浅井、そして、ホールの手伝いに駆り出された如月がホールの掃き掃除をしながら、今日の事を話している。
「ですね? 今日、出勤の筈だった神林先輩が急にぎっくり腰で来られなくなったり。本当、今日は色んな意味で大変でしたねぇ?」
そして、浅井に呟きに、如月がすぐさま反応する。
「だな?」
浅井が、さらにその如月の言葉に相打ちを返す。
今日は、ほんと色々なことがあり過ぎなくらい色んなことがあった。
だけどまぁ? 小さなトラブルが少しあったけどなんとかやり切る事ができた。
「だけどまぁ? あの話はびっくりしましたよねぇ? あんな漫画みたいな話、本当にあるんですね?」
如月が言うあんな話とは、さっきまでここで合コンパーティをしていた瀬野と黒木の会話の事だ。
ただし、宇野はこの二人の会話の事は知っているが、会話の主人公が七橋來未である事にはあることは知らない(兼城によって嘘を刷り込まれている)
「あるんだろう? ってか お前相変わらずこの手の話し好きだよなぁ?」
浅井は、早く掃除を終わらせたいので、もう話を終わらせたい。
けど……
「如月先輩は気にならなんですか?」
「別に? 俺には関係ない事だし? それより早く片付け終わらせようぜ!」
浅井は、如月の傍を離れて、カウンター周りの掃き掃除を再開する。
そんな浅井の姿に、如月は何度も彼の名前を呼ぶが、浅井はそれを無視する。
なので……
「宇野先輩は、気になりますよね? さっきの話?」
「私も別に気にならないかな?」
如月の問いかけにホールのテーブルを布巾で拭いていた宇野が答える。
「えっ! 嘘だ! 先輩たち絶対おかしいですよ!」
あの話が気にならないなんて先輩達絶対おかしい。
「なにもおかしくないだろ! むしろ、如月! なんでお前はそこまであの話に気になるんだよ!」
「だって、気になるじゃあないですか? あの二人のお客様が話していたroseの女性スタッフの中にいるかもしれないその人の婚約者の話! だってもし、本当にその婚約者さんが本当にここで働いていたら会わせてあげたいじゃあないですか?」
「……」
確かに、如月の言う通りあの瀬野明希と言う男の人が捜している婚約者が本当に七橋先輩だとしてたら、自分だって確かめたい。
けど、それを自分の好奇心だけでしてしまうのはダメだと思う。
それに……なんだか、昨日、七橋先輩の様子がいつもとちがった気がする。自分の気のせいかも知れないけど。
「……浅井先輩?」
「浅井?」
急に黙り込んだ自分に向かって如月と宇野が同時に呼び掛ける。
「あぁなんでもない。それより、もしも、お前の言う通り、この店の女性スタッフの中にお客様の婚約者が働いていたとして、如月お前はどうするんだ! そのお客様にここにいますよと報告するのか?」
「そそそそれは……」
如月。声を詰まらせる。
「例え、スタッフの中に、お客様の婚約者がいたとしても、それは、あくまでもその二人の問題であって、お前が興味本位で関わっていい問題じゃあない。ましてや、裏も確認も取れていない情報だよなぁ?」
如月をさらに言葉で畳みかける。
「……すすすすすみませんでした」
如月、浅井に向かって納得いかないが謝る。
しかし、その顔は涙目になっている。
その顔を見て、流石の浅井も言い過ぎと反省し、慌てて、
「じゃあ、宇野と如月は、引き続きホール掃除お願い。俺は、外の掃き掃除してくるから」
そう二人に告げると逃げるカウンター周りの拭き掃除を切り上げ、箒を持って扉から外に出て行った。
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