元カレ

第34話

(…すみません。お待たせしました)

 店員の男から、おかわりのビールを受け取る。

 黒木はみんなの傍を離れ、窓際にの壁に寄り掛かり一人ビールを飲んでいた。

 決して合コンが嫌になって、皆の傍を離れたわけではない。

 ただ、こんな中途半端な気持ちのまま合コンに参加できない。

 勿論理由は解ってる。

「なんだよ! 合コンの主催者が合コンに参加しないでこんな所で独り酒か? それともモテる為の作戦か?」

 瀬野明希が自分のグラスを黒木のグラスに軽く当て、そのまま隣に立つ。

 ※髪型(黒、短髪)服装(グレーのスーツにデニムシャツ。靴は黒の革靴。シルバー眼鏡。

「違えよ!」

「…ふっん? だったらなんでこんな所で独りで飲んでるんだ?」

「別に? ただ、一人で酒が飲みたくなっただけ。それよりいいのか? お前みたいなモテおとこが俺なんかの所にきて?」

 ムカつくが瀬野明希は学生時代からすごくモテた。

 でも、肝心の本人はその事に全く気がついていない。

 だから、余計にムカつく。

「なんだよ?」

 明希は、黒木の視線に怒りを覚える。

「お前、自分が女の子にモテる自覚ないだろう?」

「ない。そもそも、婚約者が居る男に恋してどうするんだよ!」

「…ここここ婚約者!」

 親友から飛び出した婚約者と言う言葉に、黒木は声が裏返る。

「おい! 大丈夫か? 声がすごく裏がってるけど?」

「そそそそんな話聞いてないぞ!」

「あれ? 言ってなかったけ?」

「訊いてねぇよ! ってか? いつからいたんだよ? まさか! 学生時代とか言わないよなぁ?」

「よく解ったなぁ」

 自分の問いかけに、なんの悪気もなく「よく解ったなぁ」と答える瀬野。

「ここ…こここの裏切り者!」

 瀬野の胸板を服の上から覆いっきり叩く。

「おい黒木! やめろって! 自分に恋人がいないからって俺に八つ当たりするなよ! それに人の話は最後まで訊け!」

「訊くない! お前の惚気話なんて!」

「いいから黙って俺の話を聞け!」

 自分の胸板を殴り続ける黒木を強制的に引き離す。 

「確かに俺には婚約者がいる。けど、それはあくまで彼女あっての話で、今も彼女が俺の事を婚約者だと思ってるかはまた別の話だ!」

「えっと…お前は彼女ことを婚約者と思ってるけど? 向こうの方はお前の事を婚約者だと思ってない? どういう事? 瀬野は、その彼女と婚約してるんだよなぁ?」

 床に尻餅をついている黒木は、瀬野の言っている言葉の意味が理解できない。

「ん…多分?」

「おい! そこははっきりしろよ。お前の婚約者なんだろう?」

「それはそうなんだけど? なんせ7年前にアメリカに語学留学に行ったきりも一度も彼女とまともに会ってもいないし、俺自身、つい最近アメリカから帰国したばっかりで彼女がいまどこでなにをしてるかさえ分からないんだよ! 当時の連絡先も変わってるみたいだし」

 自分の事なのに、まるで他人のごとのように笑う瀬野。

「笑ってる場合じゃあないだろう! ってか! なんでそんな大事なこともっと早く言わなかったんだよ!」

「…なんでお前に言う必要があるんだよ!」

「あるよ! 俺達親友だろう!」

「…えっ?」

 黒木からの親友発言に瀬野は首を傾げる。

「おい! なんで首傾げてんだよ! 俺達親友だろう!」

「…んんん? 学生時代からの腐れ縁だとは思うけど? んんん親友…なのか?  俺達?」

「…もういいよ! 腐れ縁で。で? その婚約者の居場所は解らないにしろ、連絡先は解るだろう?」

 黒木は諦めての瀬野に彼女の連絡先が解るのか質問する。

「んんんそっちも微妙かな? ほら? 7年も経ってるし?」

「そうだよなぁ? じゃあ、彼女の知り合いに訊くって言うのは! 誰か知らないのか?」

「…彼女の友人なら一人知ってるけど? 電話番号まではちょっと」

 婚約者である七橋來未の友人で一番の親友である神林栞。

 彼女の事は、來未から教えて貰い、数回だけが直接会ったことがある。

 しかし、連絡先までは知らない。

「…そっか? そうなると彼女の連絡先を知る方法は…」

 黒木の瀬野の回答にこれからどうしようと頭を抱えていると…

「…いやぁ? 一か所だけ…彼女の痕跡が確実に残っている場所がある。でも、そこを今更頼っていいのか…」

「いいに決まってるだろう! お前は彼女の婚約者なんだから! で? その場所はどこなんだ!」

「…ここ」

「はぁ?」

 黒木は思わず首をかしげてしまった。

「だから…いま、俺達が合コンをしているこの店が、昔、彼女がホールスタッフして働いてた店」

「ぇええええええええええええええええええええええええええ」

 瀬野の口から飛び出した衝撃な事実に黒木は、合コンんぽ最中だと言う事を忘れて大きな声で叫んだ。

「声大きすぎ! 他の皆が見てるだろう!」

「ごめん! でも、お前もそうならそうってなんで最初に言わなっかったんだよ!」

「…お前に言うつもりなかったし! それに、今みたいな反応されたら訊くに訊きづらいだろう?」

「んぅ」

 それを言われたらぐうの音も出ない。

「はい! もうこの話は終わり! 取りあいず今は合コンを楽しもうぜ! 非モテおとこの黒木陽樹!」

「おい待ってこら!」

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