第32話

浅井藍里に常連客の藤原さんと話し込んでいた事を怒られた宇野は、事務所に看板を戻して、彼と二人で17時からの団体客を迎える準備を素早く終わらせた。

「…これでよし藍里! こっちは終わったぞ!」

「こっちも終わったよ! 1分前なんとか間に合った!」

「お前が無駄話しなければもうちょっと余裕だったけどなぁ?」

「もうその事については謝ったんじゃあん!」

「ほら! あと10秒でじゅ…あぁ!」

 _チリン_ 店の扉が開く音。

「こんばんは! 今日はお世話になります」

 扉が開き、10人の団体客が店の中に入ってきた。

★ 

「水野さんってなんのお仕事をれてるんですか?」

「花が好きなので花屋で働いています。けど、実際働いてみると大変なことばっかりで。黒木さんは、なんの仕事をされているんですか?」

「農家だよ! こんな見た目してるけど!」

「おい! 見た目は余計だろう! ってかなんでお前が言うだよ!」 

「いいだろう別に減るもんじゃあないし。それに、俺達友達だろ?」

「…誰が友達だ! お前がいつも勝手についてくるだろう! 俺のいく…って水野さん!」

 杉山と黒木の会話を訊いてた水野唯(みずのゆい)が突然笑い出す。

「ぁぁごめんなさい。黒木さんと杉山さんってとても仲がいいんですね?」

「はい! 僕達親友ですから! ねぇ? 黒木?」

「あぁそうだなぁ。って? 店員さん?」

 杉山と水野の会話に魂を持って行かれた黒木は否定するのが面倒くなり、もうどうでもなれと言わんばかりに返事を返す。

 すると、自分達3人の会話をなんだかもう訳なそうに訊いている宇野と目があった。

「ご注文品をお持ちしました」 

「ありがとうございます。ほら、杉山受け取って」

「大丈夫です。私がやりますから、お客さまはそのままで」

 杉山が手伝おうとしたら、女性の店員である宇野茉莉花に止められた。

 そして、宇野はそのまま持ってきたカートからサンドイッチ、唐揚げ&フライドポテトセット、ビーフシチューとサラダボウルを取り出しテーブルの上に並べる。

「サンドイッチ、唐揚げ&フライドポテトセット、サラダボウル、ビーフシチューになります」

「ぁぁありがとうございます」

 3人は、二人に向かって深々と頭を下げる。

「それではなにかありましたら、そっちらに置いてある…」

 宇野がボタンの説明をしようとしたのを黒木が途中で止める。

「あぁぁの? ビールのおかわりいただいてもいいですか?」

「おかわりですか? かしこまりました。すぐにお持ちします」

 宇野は、頭を下げるカートを持ってテーブルを離れていった。

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