第31話

16時45分 カフェ「rose」

「藤原さん。今日はすみませんでした。せっかく来ていただいたのに」

「こっちこそなんか今日はごめんねぇ? 忙しい時に来店したみたいで」

 今日は、17時から団体客の予約が入っているので、通常の営業は5時で終わり。(ラストオーダーは4時30まで)

「いえ! お客様である藤原さんは何も悪くありません!」

「それも言うなら宇野ちゃんだって…」

 お互いに自分が悪いと頭を下げる宇野真理華(22)と藤原。

 そんな攻防を繰り広げて1分、藤原が頭をゆっくり上げる。

「そう言えば今日は、宇野ちゃんと浅井君以外は皆休みなの?」

「えっ?」

 藤原の口から飛び出した予想外の言葉に頭を上げる。

 しかし、その衝撃で少しせき込んでしまう。

「宇野ちゃん! 大丈夫?」

 急にせき込み出した宇野の背中を優しく摩る。

「ありがとうございます! もう大丈夫です」

「そう? なんか自分、変なこと聞いちゃったかな?」

「いえ? 今日は、私と浅井、そして神林先輩以外は皆希望中なんです」

「そうなんだ。あれ? ちょっと待って! いま神林先輩以外って言わなかった? でも、今日…」

 宇野の説明に藤原は首を傾げる。

 確か、今日、自分の考えが間違えじゃ無ければホールに神林の姿はなかったような? ただキッチンを仕事を手伝っているもしくは昼まで、それでも自分が来店した時には、彼女の姿はなかった。 

「神林先輩、今日ぎっくり腰で休みなんです」

「えっ? ぎっくり腰?」

「はい。店長の話によると仕事に行こうと玄関で靴を履いていたら突然ぎくりと腰になったらしいんです」

「それは神林ちゃん災難だったねぇ? じゃあ、今からの団体客も二人で対応するの?」

「いえ? 流石にそれだと手が回らないので店長が入ってくれることになりました。あぁすみません! 私としたことがお客様もこんな長い時間引き留めてしまって」

 宇野は今更になって常連客である藤原を長い時間、店の前に引き留めていた事に気が付き謝罪する。

「そんなの全然気にしなくて大丈夫だよ! 寧ろ、宇野ちゃんの方は大丈夫? 浅井君に怒られたりしない?」

「それは大丈夫です」

「そう? ならよかった。でも、これ以上は宇野ちゃんに迷惑かけるからもう行くね? じゃあ、お仕事頑張ってね?」

「はい! ありがとうございます」

 手を振りながら、自分そして店から離れていく藤原に宇野も手を振り返す。

 そして、彼の姿が完全に見えなくなったのを確認すると扉を開け、店の中に戻る。

 すると、一人で片付け作業をしていた一つ年上の幼馴染の浅井藍里(23)が箒を持ったまま自分の元にやってきた

「…宇野お前! いつまでお客様の見送り掛かってるだよ! 今日は俺とお前の二人しかいないんだぞ!」

「ごめんって? でも、片付けなら浅井一人でも十分でしょ?」

「そんな問題じゃあない。今日はこれから団体客が来るんだぞ! それもあと約10分後に! お前解ってるのか?」

「解ってるよ!」

「だったら、常連客と長々とおしゃべりなんかしないで、仕事に集中しろ! 今日は、先輩達誰もいないんだぞ!」

「…そうだよねぇ? ごめん!」

 ☆

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