第27話

「…戻りました」

 電話に出る為にキッチンを離れ、色々あってキッチンに戻ってきた如月は、唐揚げの仕込みを終え、ビーフシチュー仕込みを始めていた兼城に戻りましたと声を掛ける。

「おかえり。遅かったなぁって? なにがあったんだ!」

 兼城は、如月の汚れた制服をを見てなにがあったのか彼に尋ねる。

「あぁこれですか? 恥ずかしい話なんですけど、電話を取りにホールに行く途中、床に落ちてたゴミに滑って転んじゃったんです。あぁはぁはぁ」

 話さない理由の一つに、自分で勝手に勘違いして店長に土下座をしてのもあるのだか、それ以上にさっきの店長の行動と言葉は異常だった。

 なんだか、焦っているような感じに見えた。

 まぁ? これも自分も勘違いかも知れないけど…

「あぁはぁぁって笑ってる場合じゃあないだろう?」

「すみません」

 兼城の指摘に如月は、申し訳なさそうに頭を下げる。

「まぁ? お前に怪我がなくてよかったよ! とりあえずその制服は着替えてこい! 汚れ過ぎた」

「…あぁぁそうですね? じゃあちょっと着替えてきます」

 如月は、制服を着替える為に再びキッチンをあとにした。

「まぁ? 如月に怪我がなくてよかったけど…コケるか? あんなところで」

 如月が出ていったあと兼城は小さくため息をつく。

 けど現実に如月はコケ、制服の上からは着る黒いエプロンは泥で汚れていた。

 だから、兼城は、この信じがたいこの現実を受け入れなければいけない。

 ただ…その中で兼城の中で一つの疑問が…

「そう言えばあいつ、電話のこと一切言わなかったなぁ? まぁ? あいつが戻ってきてから聞けばいいか? そんな事より夕方の仕込みを早く終われせないと9時の営業時間に間にあわない」

 兼城は消していたガスの火をつけビーフシチューの仕込みを再開させた。

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