テディベア

第13話

20時 神林栞、遠藤匠が住むオートロックのマンション。

 仕事場であるカフェ「rose」からは、歩いて30分の所にある。

 一方で來未が、今日の朝まで同棲していた古橋総一郎のマンションから「rose」までは、最寄り駅である「華水」から歩いて15分掛かる。

 そこの402号室(4階)で栞は、恋人である遠藤匠さん(32)と2年前から同棲している。

 但し、まだ結婚はしていない。

「匠さんただいま!」

 自分の家にスーツケース(奢って貰ったストロベリーチョコフラッペ)を持った來未と一緒に帰ってきた栞は、玄関に入るなり…大きな声で恋人である遠藤匠を呼んだ。

 するとその声に気づいたのか、匠がリビングから顔を出す。

「栞おかえり! って來未ちゃん! 久しぶり」

「お久しぶりです! 匠さん!」

 來未は、顔だけ出した匠にお久しぶりですと声を掛ける。

 來未が栞の家にくるのは、彼女の誕生日である9月10日以来3ヶ月ぶり。

「匠さん! そんな所居ないでこっちに来て來未の荷物持ってあげて!」

「あぁぁぁ解った!」

「いいよ! 自分で持つから!」

「いいよ栞! 自分でやるから! 匠さんも大丈夫ですから!」

「遠慮しないの! はい! 匠さん! これ、私の部屋にお願い?」

 栞は、來未の遠慮する声に全く耳を貸すことなく、匠に來未が持ってきたスーツーケースを彼に渡す。

「しししし栞! ちちょっとどういう事?」

 突然の事に匠は意味が解らない。

「匠さん! 今日、來未、家に泊めるから! ほら來未もそんな所に突っ立てないで早くあがってあがってあがって!」

「おおじゃあまします!」

 栞の独壇場に、來未は白旗をあげ、履いてきた黒の革靴を脱ぎ、部屋の中に入る。

「あぁ! そうだ! 匠さん! ちょっと待って!」

 スーツケースを栞の部屋に持っていこうとしていた匠を、栞が呼び止めた。

「どうした?」

「お風呂ってもう湧いてる?」

「さっき沸かしはじめたからもう湧いてると思うよ?」

「ありがとう! じゃあ、來未先に風呂入っていいよ? 着替え持ってきた?」

「えっと…ちら」

 恥ずかしそうに匠に目線を向ける。

 その目線に気が付いたのか、匠が手に持ったスーツケースをその場に置くと逃げるようにリビングに消えていった。

「ぁぁぁぁ自分、リビングに行ってるね?」

「ちょっと匠さん!」

 逃げるようにリビングに行ってしまった匠に、栞はため息をつく。

 だがすぐに、來未に視線を戻す。

「ごめんね栞! 匠さんに気を使わせて」

 來未は申し訳なさそうに頭を下げる。

「いいよ! 親友の恋人とは言え男だもんね? 匠さんも? それに、匠さんは私の恋人とはいえ、男性の前で着替えの話をした私も悪いし」

「栞は何も悪くないよ! ただ私が…」

「…來未は何も悪くない。悪いのは來未の事もてあそぶだけもてあそんだあのクズ野郎だよ!」

 栞が來未に正面から抱きつく。

「…栞」

「だから、そんなクズ野郎の事なんか! お風呂に入って流しちゃえ!」

「…そうだね」 

 抱きつかれた來未も栞のこの言葉に頷く。

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