第11話

「…店長って、來未の事が好きなんですか?」

 看板を持って事務所にやってきた栞は、事務作業の片手に、隣のパソコンでホール内の監視カメラ映像を同時に見ていた樹怜に投げかけた。

「!」

 突然聞こえてきた栞の声に、パソコンの画面に目が行っていた樹は、慌てて後ろを振り返る。

「なんだ神林か? 脅かすなよ」

「すみません。看板を戻しにきました」

「そっか? いつもの所に戻しておいてくれ!」

「解りました」

 栞は、樹に対して一礼すると彼の前を通り、奥のロッカーの中に看板を戻す。

 そして、再び樹の元に戻ってくると…彼が見ていたホール内を映した監視カメラの指差しながら…改めて樹に尋ねる。

「で、店長はいつから來未の事が好きなんですか? 來未がバイトとして入ってきた頃からですか?」

「なに言い出すんだ! あいつはここのスタッフだぞ!」

「スタッフだったら好きになったらいけないんですか?」

「あのなぁ? 俺はこう見えてもこの店の店長だぞ!」

「だから何ですか?」

「だから? 店長である俺が、スタッフである七橋に好意を持つはずないだろう?」

「そうでしょうか? 私から見て店長と來未は…」

「神林! 他に用事がないならもういいか?」

 栞の言葉を遮るように樹が栞に話しかける。

 樹は、まだ事務作業最中だ。

 だから、正直これ以上栞の話につきあっている暇はない。

「あぁぁすみません! 店長お疲れ様でした」 

 來未の事をもう少し追求しようとしていた栞は、樹のこの言葉に、彼が事務作業中だった事を思い出し、慌てて部屋から出ていった。

「あぁ! 生クリームのこと…まぁいっか明日謝れば」

『…店長って來未の事が好きなんですよね?』

「…なに動揺してんだよ? あいつ…スタッフで恋愛対象なんかじゃあない。それ以前にあいつには…」

 忘れられない…いやぁ、無理やり忘れた男がいる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る