第10話

「…ありがとう兼城君」

 栞が完全にいなくなったことを確認した來未は、兼城の方を向き、彼に向かって頭を下げた。

「七橋! 俺は、神林の為に言ったわけであってお前に感謝されるいわれはない」

 自分に対して頭を下げてきた來未に、慌ててふためく。

「だとしても、兼城君の言葉のおかげで栞は救われた。だから、私からもお礼を言わせて」

「…七橋」

 自分に対して満面の笑みを向けてくる來未に兼城の頬が少しだけ赤く染める。

 しかし、すぐさま首を縦に振り來未にばれない様に頬の赤みを消す。

「でも、栞のせいで今日の試作は…」

「それなら大丈夫ですよ!」

「えっ!」

 キッチンから藤井を出す。

「ふふ藤井君!」

「藤井!」

「七橋先輩お疲れ様です。これ、如月が店長に頼まれて買ってきた材料で作ったフルーツパフェとフルーツゼリーなんですけど、よかったら味見して貰えませんか?」

「えっっと…藤井君が作ったの?」

「はい…と言いたい所なんですけど、作ったのはそっちに居る兼城先輩です。そうですよね先輩?」

「…あぁ」

 藤井は、この料理を作ったのは、自分ではなく、兼城だと告げる。

 そして、話を振られた兼城、動揺しながらも…最終的には自分が作った認める。

「兼城君! なんでその事をさっき言ってくれなかったの! そしたら栞だって…」

 謝罪にいかなくても済んだかもしれない。

「七橋! 神林が使ったのは間違えなく、試作用に準備してあった生クリームとフルーツだ!」

「でも、いま、ここにその試作品があるじゃあん」

「それは…」

 來未の言葉に兼城が口をつまむ。

「七橋先輩! 兼城先輩を責めないであげて下さい!」

「藤井君!」

 兼城を庇うように、藤井が來未に話しかける。

「確かに、七橋先輩の言う通り、神林先輩が試作用の材料を店の料理に使ってしまった事は事実です。でも、神林先輩が使ったのは、如月が間違えて買ってきてしまった、ホイップクリームの方なんです。だから、試作自体には全く影響がないです」

※如月が買ってきたドライフルーツ。苺、パイン、モモ、ブルーベリー

「…そうだったんだ。じゃあ、栞は…」

 ホットケーキを頼んだ一部のお客様に生クリームと間違えてホイップクリームを出してしまったって事?

「神林先輩はご自分のミスで生クリームとホイップクリームを間違えってお客様に提供した事になります」

「…」

 藤井か最終判断に來未は言葉を失う。

「大丈夫ですか? 先輩?」

「大丈夫。ごめんねぇ? 二人とも疑ったりして」

「いえ? 自分達の言い方も悪かったので。それより先輩? やっぱり古橋さんと喧嘩でもしたんですか?」

「えっ? なんで?」

「いえ? いつもは、弁当派の先輩が今日は賄を食べていたので。珍しいなぁって」

「あぁ! そう言えば、七橋、何で今日は弁当じゃあなくて賄だったんだ?」

 藤井の疑問に、兼城も乗っかるように來未に質問をぶっける。

「それは…ちょっと寝坊して。お弁当が作れなくて…あぁ藤井君! これ、片付けが終わってから栞と一緒に食べるねぇ!」

「あぁぁ分りました!」

 話を強引にいやぁ…一方的に終了させれた藤井は、來未にお盆を渡す。

 しかし、そんな藤井とは違い、兼城は…お盆を手に取る來未の左手を掴む。

「待って! お前、指輪はどうしたんだよ!」

「そそそれは…」

 兼城からの問い詰めに…來未は口をつぐむ。

「お前、古橋総一郎と何かあったんじゃあないのか! だから今日は弁当じゃあなくて…」

 來未の目から涙が零れる。

「七橋!」

「先輩!」 

 來未の突然の涙に二人が驚く。

「…二人の言う通り、私…総一郎さんに…捨てられたの」 

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