第8話 ファーストトライ




「お買い上げありがとうございました」


 おれは協会ビル内にあるアンテナショップでオススメされた探索者モデルのケータイを新たに契約した。

 現金一括払い。カバーとか諸々、言われるままに付けてもらったら結構いい値段に。


 なぜ契約したかって?

 そりゃ今までのケータイは何をどうしてもシミュレーター以外の機能が使えないからさ。

 古い型だったし、これからの新生活、探索者デビューにあわせてケータイも替え時なのだと踏ん切りがついた。


 ちなみにシミュレーター専用機になった旧ケータイの不具合はお店の人も原因は分からないらしい。

 もう別にいいけどね。


「いざ、おれのデビュー戦へ、レッツ&ゴー!」


 テンション上がってきたぜ!

 お店の前にて、さっそくおニューのケータイで自撮りFoooo!




◇◆◇




 おニューのケータイに探索者アプリを入れてもらってから、再び協会地下ダンジョンへ舞い戻った。

 レッド、ブルー、イエロー、グリーンに染められた全身武装に身を包み、ダンジョンへと続く通路をカツンカツンと歩いていく。


「待たせたな協会地下『スターロードダンジョン』。これから始まる、おれのレジェンどぶっ!」


 謎の力で弾き返された。


「赤青さん。昨日もその装備で入れませんでしたよね?」

「そうだった!」


 今日もキリッとした職員さんがツッコミを入れてくれた。いい人だなぁ。


 装備一式を外してロッカーへシュート。普段着+レンタル刀になる。

 髪型、メタリックなグラサン、オーケー。

 ダンジョンシミュレーター、オーケー。

 おニューのケータイ、オーケー。

 パシャ。自撮り、オーケー!


「お待たせいたしました。職員さんも、おれのデビューにわざわざお越し頂きありがとうございます」

「あら赤青さん、てっきり帰られたのかと」


 やだなあ、帰るわけ無いじゃないですか。

 気を取り直して、おれは歩幅を計算してから再びカツンカツンと歩き出す。

 肩で風を切るように職員さんの脇を通り過ぎ。


「『スターロードダンジョン』。それは伝説の始まりを飾る第一歩、おれの輝かしいサクセぶっ!」

「…………」


 謎の力で弾き返された。


 あっれぇ〜?

 おれ防具外したよね、何で謎バリアで弾かれてんの。


「ダンジョンの仕様変更とかありましたか?」

「あったら大騒ぎしてますよ」


 ということは。


「実はおれのレンタルした刀が別のダンジョン産の素材で作られたスペシャルな逸品という可能性は」

「ありませんね」


 ですよねー。

 

「えっえっえっ、じゃあおれのデビューってどうなるんですか?」

「まずは入場からですね」




◇◆◇




 釈然としない気持ちのまま帰るのもアレなんで、休憩室でダンジョンシミュレーターを起動。


「大丈夫大丈夫、ダンジョンならここにもあるしぃ? おれまだ全然平気だしぃ?」


 誰もいない休憩室にて震え声で画面をタッチ。

 ケータイのダンジョンはおれをこころよく受け入れてくれた。


『ザッザッザッザッ♪』



――――――――――


【ジャージマン】

HP: 43/ 43

MP: 13/ 13

SP: 23/ 27

LV:  2

VS: 健康


特殊:《ラッキー》


装備:ノービスブレイド

  :ノービスアーマー

  :ノービスガントレット

  :ノービスブーツ

  :ノービスマント


道具:ポーション(N)×1



――――――――――



「オーケーオーケー余裕余裕。明日は隣の区にあるF級ダンジョンの予約入れたしぃ? 今日はジャージマンの実験のために協会来ただけだしぃ?」


 3Dダンジョンを進んで行くとデロンデロン音が鳴ってモンスターが出た。


「おいおいゴブリンさんやめておいた方がいいぜ。今のおれは最高にデンジャラスだからな!」


 角のついたヘッドギアに左手を添えて、右手で画面の[???]に向かって指をさす。


 ちょっと気が済んだのでポーズを解いて、そそくさと腰にさした“初身乃御心刀ノービスブレイド”を抜き放つ。



――――――――――


【ジャージマン】 の攻撃


[???] に 10 のダメージ



[???] の攻撃


【ジャージマン】 に 4 のダメージ


――――――――――



 刀持ちながらケータイ操作するの難しいです。

 仕方ないので左手のワンハンド操作に切り替え。

 これなら右手はフリーだからポーズ決めながら操作できるんじゃ?


 腰を落とし、刀の刃を上向きにして右手を肩の高さで引きつつ、切っ先を正面に向ける。



――――――――――


【ジャージマン】 の攻撃

クリティカルヒット!

[???] に 22 のダメージ



[???] を倒した


経験値 を 60 獲得した


『魔石(10等級)』 を手に入れた


――――――――――



「おおっ、クリティカル出た! 何これ、おれスーパー格好良くね?」


 調子に乗ったおれはそれから同じポーズで3戦ほどしてサクサクと討伐していった。

 クリティカルは最初の一回だけだったが、それでも初日の苦戦がウソみたいに順調である。



――――――――――


【ジャージマン】

HP: 27/ 47(+4)

MP: 14/ 14(+1)

SP: 21/ 29(+2)

LV:  3(+1)

VS: 健康


――――――――――


獲得アイテム:


『魔石(10等級)』×3

『ポーション(N)』×1



――――――――――

 


「ポーズは攻撃の強さとは関係ないかぁ。でもせっかくだから気分的に格好良いし続けるぜ!」


 おれは明日のデビュー戦へ向けてイメトレをかねて訓練しているのだ。

 断じて不貞腐れてゲームしてるんじゃあない。


「これならあと一回くらいレベルアップできそうじゃないか?」


 イメトレにだってモチベーションは必要。

 おれ的格好良いポーズを練習しながらケータイのダンジョンに没頭した。



◇◆◇



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