第7話 ノービスアタック




 翌日おれは朝早くに家を出て探索者協会へ出向いていた。


(ここならフル装備でも変に思われない!)


 おれのデビュー装備は脱サラするまでコツコツ貯めてた貯金で購入した赤、青、黄、緑の4色カラーで染め上げた特注品。

 ポップでド派手な全身装備さ!

 エントリーモデルより少し性能は落ちるけど。


「何あのドギツイ色」「アメリカのお菓子?」「一人で戦隊モノ?」


 フフ、目立ってる目立ってる。

 そうだろう、格好良いだろう。


(おっと悦に浸ってる場合じゃない。ケータイ・オン! ダンジョンシミュレーター起動。これより実験に入る!)


 ちなみに今のこのケータイは何をやってもダンジョンシミュレーターしか起動しない。

 というか他の画面が表示されない。

 電話もメールも使えない。

 もちろん検索もできないしWikipediaで調べ物もできないのだ。


 あれ、これってもはやケータイ電話じゃなくて携帯ゲーム機なんじゃ?



――――――――――

 

【ジャージマン】

HP: 43/ 43

MP: 13/ 13

SP: 18/ 27

LV:  2

VS: 健康


特殊:《ラッキー》


装備:ノービスアーマー new

  :ノービスガントレット new

  :ノービスブーツ new

  :ノービスマント new


道具:ポーション(N)✕1


――――――――――



 パラメータが変わってる。

 あとSPがマジで分からん。地味に減ってるし、回復しきってないのかな?


 よしよし、装備はやっぱりおれと連動してる。

 でもノービスってダサくない?

 そこはほら、『プリズミックアーマー』とか『インクレディブルガントレット』とか。

 そういうちょっといい感じのネーミングをだね。

 

「お客様、ご注文はお決まりでしょうか」

「えっああ! じゃ、じゃあサンドイッチセットで、飲み物はオレンジジュースかな!」

「はい。エルフのサンドイッチセットとお飲み物はドライアドのオレンジジュース。以上でお間違いありませんでしょうか?」


 そうだった。

 おれが今いるのは協会ビル内にあるカフェ。

 名前こそファンタジー感まる出しだが普通の食材で作られているコンセプトカフェである。

 協会内にあるのでダンジョン通いの格好のままでも入れるのだ。


 おれは昨夜の衝撃で落ち着かなくなり朝早くに出てきたので腹が減っていた。


「よし、これで準備万端!」


 注文を済ませてケータイを操作。

 昨日の雪辱を晴らさせて貰おうか!




◇◆◇




―《【ダンジョン】》―

―《【編成】》―

―《【クエスト】》―

―《【倉庫】》―

―《【マップ】new》―



 昨日あの後で一通り他のアイコンも触ってみた。

 【編成】はパーティ管理とか隊列とか、まだ探索者仲間のいないおれには関係がない。

 たぶんアプリを入れてる人同士で協力して遊べる要素なんだと思う。

 そう考えればモンスターの強さも納得である。


 【クエスト】はいくつか候補があったけど、同時に受けられるのは一つだけみたいだ。

[モンスター討伐0/5]

 とりあえずシンプルなのを受けてみた。

 報酬はお金と経験値らしい。


 【倉庫】には所持品を預けられる。

 昨夜は寝る前に試しにジャージを入れてみたら、おれはパンイチになっていた。

 家で試しといて本当に良かった。


 【マップ】はダンジョンの探索済エリアの確認とか印を付けたりできるらしい。

 まだ全然埋まってないけど[1/30]階層と表示されたから最下層は30階だと思われる。親切。


『ザッザッザッザッ♪』


「ゴブリンモドキよ、どこからでも来い!」


 完全武装になったドット絵のおれはズンズンとダンジョンを進んで行く。


 このアプリ凄くない?

 協会の技術力ヤバくない?

 どうやってプログラムしてんのこれ?


「うおっ敵だ」


 


――――――――――


[???] があらわれた


――――――――――



 やっぱり名前が分からない。

 けれど見た目は狼タイプのモンスターだ。


 ウルフに違いない。

 きっとたぶんおそらくメイビー。


「フッ、今日のおれは完全武装なのさ。ウルフごとき敵ではない。攻撃だぁ!」



――――――――――


【ジャージマン】 の攻撃


[???] に 5 のダメージ



[???] の攻撃


【ジャージマン】 に 4 のダメージ


――――――――――



 あまり強くなってない。なぜだ?

 いや、受けたダメージは昨日より減ってるのは間違いないけど。


「はっそうだ。武器持ってないじゃん!」


 おれは自分のミスに気がついてすぐさました腰のレンタルブレイドを引き抜く。

 これを借りるために協会に来たんだった。


「ハハッ、我が愛刀のサビにしてくれるわ!」



――――――――――


【ジャージマン】 の攻撃


[???] に 10 のダメージ



[???] の攻撃


【ジャージマン】 に 3 のダメージ


――――――――――



 やっぱりそうだった。

 この画面の中のおれは今のおれの装備と同じになるんだ!

 すげえ!


「よしっイケる!」

「いいえいけませんお客様。店内での武器のご使用はお控え下さい」


 怒られた。


「10秒だけ待ってください」

「駄目です。警備呼びますよ?」


 ウェイトレスさんが怖い笑顔でぴしゃりと言い放った。

 おれの精神にダイレクトアタック。


「すんません」


 それでも画面に表示された攻撃のアイコンをタッチしてから、ノロノロと刀をしまった。



――――――――――


【ジャージマン】 の攻撃


[???] に 11 のダメージ



[???] を倒した


経験値 を 48 獲得した


『魔石(10等級)』 を手に入れた


――――――――――



(イエス! やったぜ!)


「お帰りになられるまでこちらでお預かりします」

「アッハイ」


 ものっ凄く睨まれた。

 ウェイトレスさん、かわいい顔が台無しだぜ?


「よし、食べるか」


 刀も取り上げられてしまったので腹ごしらえに専念することにした。

 エルフのサンドイッチの具は豆、レタス、トマトで肉類無しのアッサリ感。

 そう言えばエルフはヴィーガンだったわ。


 だが実験は成功である。

 カフェで武器を抜くのはマズかったけど、武器を持ってても平気なダンジョン内でなら問題ないに違いない。

 これでシミュレーターが攻略できそうだ!


(あっ……。ダンジョン内ならシミュレーターじゃなくて普通に戦えばよくね?)


 おれは正気に戻った。



――――――――――


【ジャージマン】

HP: 36/ 43

MP: 13/ 13

SP: 26/ 27

LV:  2

VS: 健康


――――――――――



 えっあれ。

 なんかいつの間にか名前変わってね?


 おれは正気に戻った。




◇◆◇



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