第6話 ジャージマン
とりあえず無難に迷路の必勝法。左手の法則を使って進んでいくことにした。
常に左手で壁に触れながら進めばいずれ必ずゴールに辿り着くという古来よりの知恵である。
「これって通用するの人工物の建物だけなんだけどな! せっかくだから現代のダンジョンでも通用するか試してみよう」
しばらく進んだり曲がったりしてると、突然デロンデロン音が鳴って画面が切り替わった。
「うおお、敵出た! ワオ、ゴブリンじゃん!」
リアクション動画の外国人もかくやというくらい、おれは事あるたびに驚いて歓喜の声を上げてダンジョンシミュレーターに熱中していた。
「どうする。武器持ってないけど、最初のゴブリンくらいなら余裕かな?」
画面中央に表示されているのは武器を持った緑色の人影、ゴブリン(?)らしきシルエットだが名前の表示は[???]である。
それとは別の画面上側にはおれの名前。
――――――――――
【赤青黄緑】
HP: 24/ 24
MP: 10/ 10
SP: 20/ 25
LV: 1
VS: 健康
――――――――――
これいつの時代のやつ?
でも馴染みがあるからいっか。
たぶんHPが生命力で、無くなると戦闘不能になるのだろう。
MPは魔力だろうか、低いな!
SPは知らない子ですね。スペシャルポイント?
微妙に減ってるのが気になる。
「まあいいや、攻撃だ! やれジャージマン!」
分からなくても進めていけばそのうち分かるだろうと楽観視して、目の前のゴブリンを倒すことにした。
「これはおれのデビュー戦のシミュレーション。格好良いところを見せてくれ!」
――――――――――
【赤青黄緑】 の攻撃
[???] に 4 のダメージ
[???] の攻撃
【赤青黄緑】 に 7 のダメージ
――――――――――
あれ、なんか雲行き怪しくない?
ゴブリンの攻撃力が高いのか、
「いやいやいや、これはゴブリンのHPが低いパターンでしょ。攻撃してれば倒せるって」
――――――――――
【赤青黄緑】 の攻撃
[???] に 3 のダメージ
[???] の攻撃
【赤青黄緑】 に 8 のダメージ
――――――――――
【赤青黄緑】
HP: 9/ 24
MP: 10/ 10
SP: 20/ 25
LV: 1
VS: 怪我
――――――――――
なんか表示ヤバくない?
おれのステータスがオレンジ色なんだけど。
あれっ怪我ってことは、もしかして2回目の攻撃ダメージが落ちてて受けるダメージ増えてるのは怪我してるから?
最初が7で次が8だから。
じゃあ次で9受けたら死ぬじゃん!
「ヤバイよヤバイよ。ジャージマン弱いよ。死ぬほど弱いよ」
テンパったおれは攻撃以外のアイコンを見る。
『防御』は味方居ないんじゃ意味ない。
『スキル』は……何も覚えてない。ですよねー。
『道具』は……何も持ってない。知ってた。
『逃げる』は失敗したらアウトだよなあ。
「なんてこった。絶体絶命のピンチじゃないか!」
あれこれイジってると、おれのステータスウィンドウから『特殊』というアイコンが出た。
開いてみると【ラッキー】という謎の文字。
「えっどういうこと? ラッキーってどんな感じのラッキー?」
ラッキーな特殊能力ってこと?
運が良くなるとか、そういう感じだろうか。
「よく分からないが使ってみよう」
ラッキーをタッチするとジャージマンのステータスが光った。
使ったのかな?
「よし、この状態で攻撃だジャージマン! きっと凄いチート能力に違いない!」
――――――――――
【赤青黄緑】 の攻撃
クリティカルヒット!
[???] に 10 のダメージ
[???] の攻撃
ミス!
【赤青黄緑】 は ダメージをうけない
――――――――――
【赤青黄緑】
HP∶ 9/ 24
MP∶ 10/ 10
SP∶ 10/ 25
LV∶ 1
VS∶ 怪我
――――――――――
凄い。
確かに凄いし強いけど、なんか地味だな。
光は消えてるから1ターンだけなのか。
もう一度おれをタッチしても【ラッキー】は暗くなってて使えない。
SPも10減っている。
「おいおい、最初の敵なのにこのゴブリンやたらと強くないか? どうしよ」
ラッキーが無ければ素の能力はおれより上じゃないかな。
いや待てよ、おれは勘違いしてるんじゃないか?
そうか、ドット絵にだまされていた。
ゴブリンっぽい見た目だけどコイツは[???]なんだ。つまり見た目はゴブリンでも色違いの進化系なのかも知れない。
「フッ、先入観とは恐ろしいものだな。きっとホブゴブリンとかゴブリンキャップとか、なんかそんな感じのアレに違いない!」
しかしやることは何も変わらない。
おれは特殊能力まで使ったんだ。今さら逃げるなんて選択肢は取れないだろ?
「よしジャージマン、攻撃だ。奴もきっと体力の限界だろう。お前なら倒せる!」
根拠はない。
あえて言うなら、ガイアがおれにもっと輝けと囁いているのさ。
――――――――――
【赤青黄緑】 の攻撃
[???] に 3 のダメージ
[???] を倒した
経験値 を 60 獲得した
『魔石(9等級)』 を手に入れた
――――――――――
【赤青黄緑】 のレベルがあがった
――――――――――
【赤青黄緑】
HP∶ 13/ 28 (+4)
MP∶ 11/ 11 (+1)
SP∶ 9/ 27 (+2)
LV: 2 (+1)
VS: 怪我
――――――――――
軽快なファンファーレ。
おれは思わずガッツポーズをしていた。
ケータイをタッチするだけの簡単なお仕事なのに、何だろうこの達成感。
「おお、宝箱ではないか!」
モンスターを倒した先は行き止まりで茶色い宝箱のドット絵が置かれていた。
もちろん開けますとも。
――――――――――
【赤青黄緑】 は 宝箱 をあけた
『ポーション(N)』 を手に入れた
――――――――――
ポーション、つまり回復薬。
ダンジョン探索の必需品である。
たった一戦でボロボロにされたが、得るものはあったのだ。
「しかしシビアな難易度だぜ。そういうところもレトロゲームの影響強いな! おっとそうだ、これは一度ダンジョンから出ないと」
帰り道はだいたい分かってる。
おれは鼻歌まじりにケータイを操作して帰り道を進ませながら、洗面台へ行って歯を磨く。
「ん、ジャージマン?」
何気なく画面を見ると妙な物が映り込んだ。
ジャージマンが何かを持っている。
「さっきアイテム拾ったけど、それか?」
道具欄を開いてみるが、表示されたのは『ポーション(N)』と『魔石(9等級)』である。
手に持っている物は、まさか武器か?
おれは自分をタッチして装備一覧を引っ張り出した。
「おいおい、嘘だろ……?」
ジャージマンこと、おれのアバターが装備していたのは、おれが今手に持っている『歯ブラシ』だったのだ。
◇◆◇
―《プレーヤーの認識によりアバターの名称を変更します。正式登録後24時間以内なら再設定可能です》―
――――――――――
【ジャージマン】
HP: 13/ 28
MP: 11/ 11
SP: 9/ 27
LV: 2
VS: 怪我
特殊:《ラッキー》
装備:歯ブラシ new
:ジャージ new
道具:ポーション(N)×1 new
――――――――――
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