第3話 ラストトライ
(あれは、なんて大きなリトルスライムなんだ)
野次馬に紛れて地下2階まで来たら、そこには巨大なピンクのぷるぷる。リトルスライムが居た。
リトルなのに巨大なんだ、嘘じゃあないぜ。
「物理攻撃、特に打撃は効果が薄い。水以外の属性攻撃のできる職員は攻撃準備!」
こりゃ凄い。誰かが職員の見てない所で遊び半分に大量のダストを合体させたんだ。
つい先日海外の動画で『サルでもできる。ダスト錬金術!』とかやってたから影響されたんだな。
合体して生まれたモンスターはアイテムのドロップもあるみたいだし。
はっ。おれもそうすればもっと経験値を稼げたんじゃないのか。
いや、おれはキリッとした職員さんが付きっきりだったから無理か!
「すんません。本当はもっと小さいのを作ろうとしてたんですけど、あいつら勝手に集まっちゃって」
「小さいとか大きいじゃなくて、合体自体が危険なのでやめて下さいと申しましたよね?」
卒業したばかりの男子高校生グループみたいな連中はこっぴどく叱られて免許停止されるらしい。
よし、やらなくて良かった。
「よーし片付いた。お疲れさん」
「はーい皆さんは上の階に戻って下さい」
火のスキルで瞬く間に倒される。
いいものを観れた。やはり職員さんは強いな。
おれも早く強くなってチヤホヤされたいぜ!
「違うんです。勝手に集まっちゃって生まれたのは一匹だけじゃなくて……」
「ええ?」
リトルスライムは極小の魔石を落とすらしいけど、巨大したリトルスライムは大きい魔石を落としたりするのだろうか。
すごく興味はあるけど、免許停止は嫌だな。
「職員は周囲を警戒して下さい。まだ他にも居る模様です」
「うわ、出たあ!」
よし、おれも午後の講習が終わったら晴れて探索者の仲間入りなんだ。
そうしたら合体なんてさせなくても普通にモンスターの出る階層に行けばいいんだしな。
「赤青さん、後ろ後ろ!」
「え? うわ、でっっかいリトルスライム」
「下がって。私が食い止めます!」
キリッとした職員さんはどこからともなく青白い材質のメイスを取り出しておれの前に飛び出した。
「こいつに打撃武器では荷が重いでしょう。ここはおれの刀が有効です」
おれも負けじとスラリと初心者用の模造刀を抜いて前に出る。
キマったぜ。
「ありがとうございます」
職員さんはメイスをしまっておれの刀を掴んで持っていってしまった。
えっあれ、ちょっと違くない?
「はっ! とうっ!」
おれが刀で格好良く倒す場面じゃないの?
おれのスーパーなデビュー戦じゃないの?
職員さんは刀身に雷を纏わせて切り結ぶ。
「これで、終わりです!」
職員さんはあっという間に巨大化した触腕を切り裂き、核を切っ先で貫いた。
ブルっと巨大リトルスライムは身震いすると、職員さんはクルリと背を向けて雷刀を一振り。
刀に付いた体液がピシャリと地面に跡を残して、ゆっくりと背後の巨体が崩れ落ちた。
それ、おれがスーパーやりたかったやつです。
「赤青さん、お怪我はありませんか?」
「大丈夫です」
それ、おれがスーパー言いたかった台詞です。
「では帰りましょう。皆さんを待たせています」
「あの、武器返してもらっていいですか?」
今おれの手元には何も無い。
何だか帰り道が心もとなくて刀を返してもらおうと思ったので聞いてみた。
「いいですよ。私の方から戻しておきますね」
「アッハイ」
勘違いされた。けど職員さんが正しい。
おれの武器じゃなくてレンタルなんだから返すのはおれだったわ。
「安心して下さい。帰りも私がお守りしますから」
「あの、ライン交換してください」
こうしておれのデビュー戦は次回に持ち越しになった。
この職員さん美人で格好良くて惚れちゃいそう。
おっと荷物をロッカーに預けていたんだった。
おれはうっかり主人公さんじゃないから受け取り忘れたりはしないんだぜ!
―《【Dungeon Create】now loading......》―
◇◆◇
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