第2話 ダスト
「あのっ、ハァハァ……。今日の、新規で、ハァハァ……。登録する……、
「はい。『
汗だくになりながら時間前に受付を済ませた。
本当は街頭の時計で間に合うことは計算できていたがそこはそれ社会人経験者たるもの、常に時間に余裕を持って現地に到着するべきなのだよ。
「新規登録者の方はこちらです。お名前をよろしいですか」
「ハァハァ、『
「大丈夫ですか?」
「余裕、ハァハァ。ですけど?」
探索者としての適性が現れてから、おれの身体能力は常人のそれとはまるで別物だ。
そんなおれがこれだけ息を切らしているのは、それだけ本気で走ってきたからに他ならない。
つまり時間厳守というプロ意識の高さ故。
可愛い感じの受付さんもキリッとした美人の職員さんも、おれがそれだけ本気なんだという印象を持ったに違いない。
そういう所、分かる人には分かるものさ。
「それでは列に並んで、これよりダンジョン研修を行います」
待ってました。
血気盛んなティーンズ達と一緒にダンジョンへと潜る。
協会のあるビルの地下には都心で一番大きなダンジョンがあるのだ。
「お兄さんの防具凄い色してるね」
「おや、分かるかい。サインしてあげようか」
いかにも高校卒業したばかりといったエントリーモデル装備を身に着けた少年少女が、おれに興味津々といった感じで話しかけてきた。
このビルのレンタルショップで揃えてきたばかりなのだろう。
「遠慮することはないさ。おれはすぐに有名になるからね。サインもプレミアが付くよ」
「ええっ、スポンサー契約とかしてるんですか」
「もちろん、すぐにそうなるさ」
「あはは、このお兄さん面白い」
エントリーモデルの装備一式は若葉マークの付いた黄色の派手なカラーリングだが、ダサい。
特にヘッドギアがダサい。
初心者支援のために安価でレンタルされてるけど、皆同じ格好になるので目立つ色なのに誰が誰だか分からないではないか。
「さあ入口です。今回は2階までしか潜りませんが気分が悪くなったり怪我をしたらすぐに職員へ言ってください」
「2階までか。行けそうなら100階くらいまで攻略してしまっても良いのだろう?」
「駄目です。初めの内は無理しないでくださいね」
断られた。
しかしティーンズ達にはウケたようだ。
仕方がないので大活躍は次回まで我慢しよう。お兄さんは大人なのだよ。
「やれやれ、この
全員の注目を集めてしまった。
断じて噛んだんじゃあないぜ?
おれのみなぎるカリスマオーラが目立ったわけでもない。
「えっと、『
「フッ、何も問題はありませんおごっ」
立ち上がって前に進むとまた後ろに倒れてしまった。
あれえ?
「もしかして
「えっ、そんなはず……。はっ!」
すごく、目立ってる。
おれはすぐさま立ち上がって何気ない感じに横向きになりながら顔に手を当てた。
「まさか、おれの装備に使われている最先端の素材がダンジョン産だったとはね。これは失念していたよ」
「すぐに外して付いてきてくださいね」
ぞろぞろと歩き出す一同。
すまない誰かツッコミくらい入れてくれないだろうか。
脱サラしたばかりの抑圧された承認欲求と、一人暮らしで培われた切なさで胸がいっぱいになった。
「あのショップのおネエさん、ダンジョン素材なんて高級品使ってないって言ってたのに」
いそいそと装備を外してエントリーモデルですらない一般服に着替える。
戻って荷物と一緒にロッカーへ入れたら今度は弾かれることなくダンジョンへと入って行けた。
「はい赤青さん、武器をお貸ししますので頑張ってくださいね」
「ありがとうございます!」
もう他の皆は始めているようだ。
初心者はまず武器の扱いに慣れるために『ダスト』という名のモンスターに思い思いの武器で戦闘訓練をする。
「はっ! とうっ! ていやあっ!」
手当たり次第にダストをスパスパと両断する。
おれが選んだのはもちろん刀さ。
だって格好いいだろう?
「ハハッ、見ろ! ダストがゴミのようだ!」
「そういう意味の名前ですからね」
職員のお姉さんがツッコミを入れてくれた。いい人に違いない。
おれが刀を選んだ理由は格好良さの他にもある。多少なら剣道をやっていたからだ。
どうせどの武器を使っても初心者なら、格好良さと少しでも心得のある武器を選ぶべきだろう?
「ふん、これでは肩慣らしにもならんな」
「ちゃんと慣らして下さいね」
ダストはモンスターのなり損ないらしい。
色とりどりの石ころを大きくして柔らかくした感じのやつだ。
ダンジョンに住むモンスターの餌になったり、たまに合体してその階層のモンスターになったりするので増えすぎないように間引く必要があるとか。
「おっ?」
何十体かのダストを真っ二つにしたおれの身体がホワっと光った。
レベルアップしたのだ。
「イエス!
「そんな感じのレベルアップではないので詳しくはサイトにあるガイドブックを参照して下さいね。あと8bitだと元の数値がゼロだったってことになりますよ」
職員さんから的確な
残念ながらダストはアイテムのドロップがない。
経験値も微々たる量で、慣れるために訓練するくらいしか使い道がないのだ。
「いい汗かいたぜ」
「はいお疲れ様でした」
結局、あの後も百体以上倒したけど2回目のレベルアップはなかった。
経験値少なすぎない?
「うわあああぁ!」「やべえ」「逃げろ!」
何だか地下へ降りる階段の方向が騒がしい。
そこでおれは自分のミスに気がついた。
「おれは何で2階で狩りをしてなかったんだ!」
「何か問題が起こったみたいです。高レベルの職員も居ますから落ち着いてここで待っていて下さい」
「おれも手伝いますよ」
「赤青さんは特に、防具無いんですから大人しくしてて下さいね?」
「はい」
有無を言わせてもらえなかった。
防具外して来てるからね、仕方ないよね。
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