第4話 クリエイト




 ライン交換は断られました。

 お仕事中ですもんね。


「今日はお疲れ様でした。また明日から頑張ってくださいね」

「ありがとうございます。その、夕食がまだ済んでないならこの後どうですか?」

「夕食なら昨日済ませましたから」

「なるほど」


 食事の誘いも断られました。

 また今度聞いてみよう。


「今日は色んなことがあった。おれのデビュー戦は明日からだな!」


 よく考えたら華々しくデビューというものは登録日ではなく、活動を本格的に開始してからするものだから明日以降でいいのだ。

 焦らなくたってダンジョンは逃げないのだよ。




◇◆◇




「【アイテムボックス】」


 自宅へ帰ってすぐ、荷物を自室に放り込んでから近くの公園へ行ってレベルアップの恩恵であるスキルを確認することにした。

 最初のレベルアップでは皆共通して【アイテムボックス】のスキルが発現する。

 はずなんだけど、出ない?


「あーあーなるほど、そういうことね。完全に理解したわ」


 今度は半身になって片手を地面と水平にかざしながら唱える。


「【Itembox】!」


 ネイティブな発音で言ってみた。

 ……出ない。


「ははーん、おれの場合はちょっと仕様が異なるのかな。知っているのだよ、稀によくあるパターンだということはな!」


 その場でクルッと一回転してシュバっと片手を上げて指を鳴らす。


「【Storage】!」


 キマった。

 小学生くらいの子供たちが遠目に観ているね。憧れちゃったかな?


「……あるぇ〜?」


 何も、出ません。

 首をひねって疑問符を浮かべてると子供たちが寄ってきた。


「なにやってるの?」

「スキルのね。練習をしてるんだよ」

「お兄さん探索者なの!?」「ぼくにもやらせて」

「HAHAHA! 君たちにはまだちょっと早いかな」


 その場でおれの考えた最強のスキル使用ポーズを披露する。

 もちろん半分おどけてやってるけど、本心は必死になって【アイテムボックス】を連呼した。

 出てくれないと泣くかも知れない。子供の前で。


「この辺でダンジョン出たの?」

「いや、緊急出動じゃないんだよ」

「でもスキルってダンジョンじゃなきゃ使えないんでしょ?」

「そうなんだ〜」「そうなの〜?」

「そうなの!?」


 そう言えば、何かそんな事を聞いていたような気もしないでもない。

 何ぶんこっちはデビュー計画で頭がいっぱいだったので講習の内容はうろ覚えなのだ。


「うん。スキルはダンジョンとそのまわりでしか使えないって姉ちゃんが言ってた」

「カズんちのお姉さんB級だもんなー」「うわーすげー!」

「マジかよ凄いな!」


 B級探索者って全体の0.4%しか居ないんじゃなかったっけ。

 えっもしかして結構有名人?

 やべえどうしよう、近所にそんな凄い人が居るとかマジで凄くね?


「うん。だからスキルの練習するなら協会行ったり簡単なダンジョンに行くんだってさ」

「へー」「そうなんだ〜」

「なるほどなぁ」


 おれはカズ君からとてもためになる話を聞いて今後の参考にすることにした。

 やっぱり身内に高ランクの探索者が居るのは自慢したくなるよね。


「カズヤ〜」

「姉ちゃんだ、もう帰らなきゃ」

「オレもー」「ぼくもかえろー」

「あれが噂の!」


 公園まで捜しに来たのは高校生くらいの快活そうな黒髪ロングの美少女だった。

 おれもB級探索者のお姉さんが欲しいぜ。本気で羨ましいな!


「楽しかったよ。お兄さんもがんばってね」

「じゃーなー」「またねー」

「おう、またなー」


 おれは勉三さんの気持ちを少しだけ理解した。


 よし、帰ったらすぐにスキルの練習ができそうなダンジョンを探そう。いきなり高ランクダンジョンへ挑戦するのは危ないからな。

 協会地下でもいいんだけど、あそこいつも混んでるんだよ。




◇◆◇




 帰ってすぐにケータイを探し、あれでもないこれでもないをして最終的に鞄から救出したが。


「なん……だと……!」


 おれのケータイが何かおかしい。

 タッチしても電源入れ直しても全く反応がない。


「えっ、えっ、えっ、うそ! やだまってちょっとありえないでしょ? えっ、えっ、えっ?」


 めちゃくちゃテンパってカチャカチャしまくる。

 やっぱり落としたのが原因かも知れない。


「どうしよう。やだうそマジで? え、だっておれのケータイだよ? ないないないない!」


 パンパン叩いてみる。

 時に激しく、時に優しめに、緩急を付ける。


 パンパンパパパン・パンパパン・パパンパーン♪


「Hey!」


 ダメだ、応答がない。


 少し置いてみる。

 こういう時は視点を変えるんだよ。

 部屋の中をウロウロして物理的に見る角度を変えてみるとひらめいた。


「あっそうだ。充電してなかったからそれだな」


 とりあえず分かりやすい結論だけ出して買い出しに近所のスーパーへ向かうことにした。

 壊れてない。おれのケータイは絶対に壊れてない。壊れたなんて認めない。認めたくない!


 だから、直る。

 スーパーから帰ってきたら機嫌も直ってると信じてるぜ、相棒!




―《【Dungeon Create】complete......》―





◇◆◇



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