第5話

「失礼します」

 杏奈は、頭を下げ所長室をあとにする。

(はぁ? なんで自分がお茶くみなんかしないといけないのよ! 所長が自分ですればいいじゃあない! 私も忙しいのよ! こう見えて!)

 所長室から出てきた杏奈は、誰にも聴こえないように、小さない声で猫宮の苦情を言いながらお盆を返しに給湯室に向かって歩き出す。

 給湯室は、杏奈が普段、事務兼受付をしている受付のすぐ隣にある。

 ☆

 杏奈は、派遣会社の紹介で、事務員として所長である猫宮が経営する探偵事務所「猫宮探偵事務所」働く事になった。

 でも、本音を言えば、杏奈はもう探偵事務所どころか探偵として働きたくはなかった。

 だけど…神様はそんな自分のことを見逃がしてはくれなかった。

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