第55話

社長である黒鳥との会話(但し通信は接続したまま)を終え、零のインカムへの通信を再び再開させたもの、インカムからも、本人からもいまだに反応がない。

「俺は、零くんの触れてはいけない逆鱗に触れてしまったみたいです。それにしても、さっきの零くんからは、躊躇いも、迷いすら感じなかった。最初に自分にカッターの刃を向けてきた彼は、確実に自分を守る為。けど、さっきの彼は、確実に自分を殺す気だった?」

  _ブぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶブ_

「!?」

 突然、部屋中に携帯の着信音が響き渡る。

 その音に遼が驚いていると、急に音が消え、代わりに話し声が聞こえてきた。

『はい。わかりました。今週末伺います。じゃあ、失礼します』

 携帯を内ポケットに入れる。そして、その場でため息をつく。

「……また、出費が」

「……零くん?」

「!?」

 びっくりしてその場に携帯を落としてしまう。

「零くん? 大丈夫?」

 遼は、慌てて彼の携帯を拾い上げ、状況が理解できてない彼に渡す。

「あんた誰? まぁいいかどうせすぐ死ぬんだし」

 目の前に居たのは、一本ネジが外れたカラクリ人形みたいに笑い、どこに忍ばせていたのかサバイバルナイフを舌で舐め、さっきとはまるで様子で自分の事を見つめる男性。そこに、さっきまでの零くんは存在しなかった。

「……」

 その姿にさすがの遼も言葉を失ってしまう。

 そして、そんな遼に追い打ちを掛けるように首筋にナイフを躊躇いも迷いもなく近づける零。

 それでも、ナイフが少し当たった場所からは、血が流れ始めた。

 けれど、すぐ、死に至る量ではない。でも、この状態をどうにかしなければ大量出血で死ぬかも知らない。

「猶予をやるよ。なんか、あんたすぐ殺すと面白くなさそうだし」

「零くんだよね?」

「……猶予やろうと思ったけど、なんか俺の名前知られてるし。バイバイおっさん」

『一之瀬!』

「!?」

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