第47話

「一之瀬さん。冷めないうちにどうぞ。これもよかったら、貰い物ですけど」

 戻ってきた零の左手には、さっきまで持っていなかった黒いトレイが握られていた。

 そのトレイの中から、零くんは、急須と湯呑、そして、食堂のおばさんから貰ったというようかんが入ったお皿とスプーンを机の上に並べた。

 ※零くんが急須などを置いた机は、彼の勉強机兼食卓。

「零くん。自分にこんなことする必要ないよ」

 目の前に置かれた飲み物と食べ物に思わず戸惑う遼。

 だって、さっきまで彼は、自分達の事を怖がっていた。まぁ、一応誤解は解けたけど。

「何も入っていませんよ。もう、自分に一ノ瀬さんを殺す理由ありませんから。まぁ、一ノ瀬さんの方は、分かりませんけど」

 自分の正面に零が腰を下ろす。そして、まっすぐ遼の目を見つめる。

「!?」

 誤解は、解けたと思った遼は、零の発言に一瞬戦闘モードになりかけたが、事務所での社長と彼との電話での会話を思い出し、戦闘モードをどうにか抑え込えこんだ。

「自分は、小学生の頃に両親を交通事故で亡くしました。それからは、祖母と一緒に暮れしていました。でも、その祖母も中1の秋に病気で亡くなりました。そして、自分に相談なしに養護施設に入れようとした親戚に自分一人で生きて行くと啖呵を切って祖母の家から飛び出しました」

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