第39話

あの日も、授業で使う道具を商店街の文房具屋に買いに行った帰りに、偶然電信柱に張られていたバイト募集のチラシで知った。


<探し物専門の探偵募集中>

●仕事内容;いなくなったペット捜し

●居なくなった人探し

●時給:仕事内容に変わります

●募集資格:経験がなくても大丈夫です

●年齢は問いません

●電話番号:***********

(探し物専門の探偵? これなら自分にもできるかも。でも、中学生の自分なんて雇ってもらえないよなぁ)

自分にもできるかも知らないバイトを見つけたけれど、中学生の自分なんてきっと雇って貰えないとチラシを見ながらため息をつく。

 けれど、そろそろバイトを決めないとお金がきついのも確かでダメ元でチラシに書かれた携帯番号に電話を掛けた。

これで、ダメなら貯金を切り崩さないといけない。

 今までは、何とか手元のお金でやりくりができた。

 零は、携帯を取り、通話ボタンを押す。

 『探し物専門探偵事務所 Brack Biadです』

「御社の探し物専門探偵募集のチラシを拝見しました一夜零と申します。恐れ入りますが、採用担当の方をお願いできますでしょうか?」

『自分がその担当兼社長の黒鳥恭介です』

「社長さん!」

 まさかの相手だったので思わず声がおかしくなった。

 その声から黒鳥にもこっちらの様子が分かったのか、電話口から

『一夜君って言ったっけ? 声が幼いけどいま何歳?」

 という質問が返ってきた。

「十三歳です」

『……』 

 正直に答えると電話口に無音が響く。

(あぁ、今回もダメか。この仕事なら自分にもできると思ったのに)

俺は、自分から断ろうと決意し、話し掛けようとした瞬間、

『今から会える?』

 電話口から黒鳥の意外な反応が返ってきた。

「えっ!」

 俺が、十三歳って言った時の反応が無音だったから、今回もダメだと勝手に決めつけていたから、思わず相手が社長なのを忘れて、大きな声で驚いてしまった。

『大丈夫?』

「あぁ……すみません。はい、大丈夫で~す」

(折角、面接まで行けそうだったのに……)

 社長に謝る。けど、言葉が少し、おかしい。

『一夜君、そんなに緊張しなくていいよ』

 自分が、落ち着くように優しく話しかけてくれる黒鳥の声に俺は、なんとか落ち着きを取り戻す。

「すみません。初めて面接まで行ったので」

『初めて?』

 自分の言葉が不思議だったのか、黒鳥が聞き直してきた。

「はい。今まで電話した所は、自分が中学生ってだけで相手にもして貰えませんでした。けれど、それはしょうがないと思います」

 正直に理由を語ると再び、三十秒間電話口が無音になった。

 そして、三十秒後……

『……そういえば一夜君は、どうして仕事を捜しているの?』

 無音から復活した黒鳥がさっきとは、明らかに違う冷たい声で自分にどうして仕事を探しているのか訊いてきた。

「……」

 その声に今度は、俺の方が無音になる。

(さっきと全然声が違う…なんか怖い。俺、もしかしてやばい所に電話した?)

 俺は、携帯を耳元に当てながら、目の前の募集チラシを見た。

 けれど、何度確認してもおかしな点はまるでない。

 けど、電話口の黒鳥の口調がまるっきり変わった。 

(もしかして俺のせい? 俺が社長さんの質問に無言になったから)

『一夜君?』

 無言になった自分を責めていると電話口から自分の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。

「あぁ! はい」

 俺は、大きく深呼吸して返事を返した。

『質問、答えたくないなら無理して答えなくていいから。でも、会うからには、知っときたいんだ。どうして、十三歳の君が仕事を捜しているのかを』

(話して大丈夫だろうか? 十三歳の自分が一人で生きていくために仕事を探しているなんて。本当に信じて貰えるだろうか? 普通だったら絶対ありえない。けれど、この人は、知りたいって言ってくれた)

「いえ、話します。社長さんは、知りたいって言ってくれました」

 零からのお願いを黒鳥は、驚きながらも受け入れてくれた。

 お願いを終えた零は、黒鳥向かって理由を話し始めた。

「自分は、九歳の時に交通事故で両親を亡くしました。

 それからは、父方の祖母と一緒に暮らしていました。

 でも、その祖母も今年の十月病気で亡くなりました。

 祖母の葬式の後、自分を児童養護施設に入れると一度も会った事も無い親戚が一方的に言いにきました。

 だから、自分一人で生きていくとその親戚に啖呵を切り、両親と祖母が残してくれた預金通帳と印鑑、祖母が自分に託した手紙、それと、必要最低限の荷物を持って家を飛び出しました。

 飛び出して、祖母の手紙に書かれた住所にたどり着くまでは、野宿でした。

 でも、全然辛くはありませんでした。大好きな両親を亡くした方が辛かったので。

 その後手紙の相手にも無事に会うことができて、今は身元保証人になって貰っています。

 あとから知ったんですけど、祖母が生前に自分が亡くなった後、孫の身元保証人になって欲しいと何度も頼み込んでいたらしいんです。

 けど、そのおかけでいま自分は生きていく事ができるんです。

 そして、御社に電話を掛けた理由は、これなら自分にもできると思ったからです」

 すべてをさらけ出した。これでもし不採用になっても後悔はない。

 そう、心に決めた零の耳元に優しい声聞こえてきた。

『辛い記憶を話してくれてありがとう。一夜君、君は強い子なんだんねぇ』

「強くありません。そうしないと自分一人じゃあ、生きていけないんです。あの? ところでどこに行けばよろしいでしょうか?」

 Black Birdの場所を知らない。会うって言ってもどこに行けばいいのか分からない。

『それなら心配いりません。いま、迎えを向かわせましたから』

「迎え!? 自分がどこに居るか分かるんですか?」

『はい。探し物専門の探偵事務所ですから』

「あぁ!」

 黒鳥の的確な回答に自分が電話していたのが探し物専門の探偵事務所だったと思い出す。

『なので、一夜君。迎えがくるまでそこで待って居て下さい』

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