第29話

『朧、依頼人にどうやって、blackBart 知ったのか訊くのは、規約違反に当たるぞ!』

 翔吾にどうやって blackBart の事を知ったのか尋ね、翔吾がその返事に困り果てているといきなり朧のインカムに零の声が聴こえてきた。

『零! お前今どこに居るんだよ! 一人で勝手に演技再開し始めたと思ったら急に一人でいなくなりやがって!』

『悪い悪い! 急にトイレに行きたくなって』

『トイレ? だったら、あんな演技しないで普通にトイレに行ってくるって言えばよかっただろう?』

『お前は馬鹿か? あの状態でトイレに行きたいなんて言える訳ないだろう?』

『なんで? 普通に言えばいいだろう? トイレに行きたいって』

『言えるか! ってか、お前、解って聞いてるだろう?』

『えっ? 何の事?』

 ここまできて話を逸らそうとする朧に零は、

『…そうだよね? 朧に全く関係ない話だよね? 朧、俺、先に車に戻ってるから。お前も、依頼人連れて今すぐ車に戻ってこい! あと、小腹空いてたから何か食べ物買ってきて! じゃあ』

 零は、そう告げると朧の返事を待ったずに一方的に通話を切り上げる。

『…』

『朧さん? 大丈夫ですか?』

 正面を見ながら固まってしまった朧に、翔吾が心配そうに声を掛ける。

『あぁ…すみません。あいつは、本当に女装が嫌いなんです。でも、いまblackBart には、あいつ以上に女装が似合う人間がいないのもまた事実なんです』

『…朧さん』

 確かに、最初に彼に声を掛けられた時は、本当の女性だと思った。

 だから、朧がいま言ったことは、嘘でもなく、彼の本心だと思った。

『…框様。俺ってダメな相棒ですね?』

『朧さんは一夜君の最高の相棒です!』

『…ありがとうございます。框様、零の所に行きましょうか?』

『はい!』 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る