第26話

「……全く。俺って、あいつに甘いよなぁ? まぁ? しょうがねえなぁ? あいつの協力者にだし」

 零との電話を彼と初めて、いや? 親しくなった日のことを思い出していた。

 あの日も、今日みたいに相棒さんに呼ばれてどこかに行こうとして……

★ 

「一夜。人間って一人で生きていけないよなぁ」

「悩みなら明日聞くから」

 俺は、そう告げて幸也の横を通りぬけようとしたら、幸也に腕を掴まれ、行く手を遮られた。

「幸也! 悩みなら明日聞くから」

 俺は、幸也の手を振り払おうとした。すると、俺だけしか聴こえない小さな声で、囁く。

「俺見たんだよね? 昨日…」

「!?」

 幸也の言葉に、振り払おうとしていた手が一瞬動きを止めた。

 それを見て、続きの言葉を囁く。

「お前が女装して怪しい男の人に声をかけてる所」

 幸也の囁きに俺はゴクリと唾を呑む。同時に、インカムに朧の声が響く。

{零。お前まだ、学校に居るのか? 依頼人との約束、十七時なんだから、もう出ないと間に合わない}

 現在の時刻 十六時二十分。依頼人の家まで二十分。学校から合流場所まで十分。時間にしたらギリギリ。

{…}

 零からの返答がないので、

{おい返事しろ} 

 と、朧が零のインカムに向かって叫んでいる。

{悪い朧、ちょっと用事ができたから5分遅れる}

 朧に五分で行くと返事を返すと、幸也の腕を強引に振り払った。

 教室から幸也を連れ出し、屋上に連れてきた。

「幸也! 俺は、お前を失いたくない。でも、俺の秘密は、誰にも知られる訳にはいかないんだ。例え、その相手がお前でも、俺は、秘密を知られたら殺さないといけない。だけど、俺にはできない。でも社長は確実にお前を殺す」

 表の一夜零は消え、いま、音風幸也に話しかけているのは、裏の一夜零。

 親友から「殺す」と言われた幸也は、驚きを通り越して固まってしまった。

「だから、幸也、俺の協力者にならないか?」

「協力者?」

 固まっていた幸也が恐る恐る声を出す。顔と体は、固まったまま。

「それしか、お前に助かる道はない。俺が働くBlack Birdは、捜し物、捜し人専門の探偵事務所。あ~ぁでも普通の探偵事務所じゃなくて裏専門だから。お前なんてどこに居ても見つけだされるぞ」

「…俺は、偶然女装をしたお前を」

「運が悪かったなぁ。で、どうする? 俺の協力者になる? それとも俺の裏の顔知って罪で社長に殺されるか?」

 腕時計を見ながら幸也に究極な選択を迫る。

 現在の時刻 十六時二十四分。

 五分と行くっと言ったのでもう出ないと間に合わない。

「一夜。お前の協力者になるよ」

「幸也。これからよろしく」

 俺は左手を差し出す。その手を幸也が握り返す。

「これで、お前は、今日から俺の協力者。それと、幸也さっきお前に言った事、あれ全部嘘だから」

「一夜。この野郎」

 自分に襲い掛かろうとした幸也の攻撃を軽く交わすと、素早く屋上から出て行き、朧の待つ合流場所に走った。

 こうして、俺は、幸也を自分の協力者にした。

 ※裏の一夜零の正体を依頼人、ターゲット以外に知られたら殺さないといけないのは、嘘じゃぁなくて真実。

 でも、零には幸也を殺す事が出来なかった。

 ☆

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