第20話

『あの? 今のは?」

 翔吾は、二人が席に着くなり、気になっていたコントの意味を訊ねた。

『あれは、周りに怪しまれないための演技です』

『演技ですか?』

『はい。じゃなかったらこいつと手なんて繋ぎません』

『自分も演技じゃないなら朧の事を朧さんなんて言いません。ましてや、社長命令じゃあなかったら、こんな格好したくもありません。女装は全てうちの社長の趣味なんです』

『…探偵さんも色々大変ですねぇ』

『…はい! 全く社長には困ったものです。まぁ? 仕事だからしょうがなく従ってますど…」

 この瞬間、この二人(一夜零、蜩朧)が正真正銘、あの日、自分が写真で判断した二人だと判明した。

『そう言えば、お2人は…」

『…それ関係ありますか? いま?』

 零からの冷たい返答。

 質問した翔吾の方が言葉を失ってしまう。

 そんな彼に助け船? を出したのは、相棒の蜩朧だった。

『框様すみません。零に年齢の話はご法度なんです」

「えっ? どういう事ですか?」

 相棒からのまさかの返答にますます意味が分からなくなる。

『ちなみは自分は二十歳です』

『…えっと蜩さん? 自分が訊きたいのは…』

 そんな事じゃあないんですけど…翔吾は思わず言葉を出しそうになる。

 しかし、そんな翔吾の想いは一瞬で崩れ落ちた。

『框様。そんな事より依頼内容を教えて貰ってもいいですか?』

『…はい」

 インカムから聞こえてくる零の声は、恐怖を感じるほど怖いけど、観客席に座っている零は、笑顔のまま自分と相棒を見つめている。但し恰好は、女装。そのギャップに思わず声がおかしくなる。

『零。その前に、俺からこの人に聞きたいことがあるんだけど?』

『どうした?』

『お前ここに来たとき、俺に言っただろ。なんで水族館なんだろうって』

『あぁ!』

 朧の言葉で思い出したかのように、

『そう言えば、どうして水族館のそれもイルカショーが行われる広場なんかを待ち合わせ場所に指定なされたんですか? ただでさえこの場所は不特定多数の人間が集まりやすいのに』

 依頼内容を聞こうとしていた零は、質問内容を急に変えた。

『それは…』

 零の質問に言葉を詰まらせる。

『あぁ! もしかしてなにか理由わけがあってこの場所を指定されました?』

『あぁいえ。そんな訳では…ただ…』

『ただ?』

 二人は、翔吾の言葉に首を傾げる。

『あの? こんな事言ったら怒られるかも知れませんが、ここのイルカショーの大ファンなんです』

『……』

『……』

 静寂な時間。

『じゃあ俺は、そんな糞みたいな理由で、一限目の授業中に突然呼び出されてやりたくもない女装までさせられたって事?』

 翔吾のインカムに零のため息声が聴こえてくる。

 すると、すぐさま、彼の相棒である蜩朧の声が聴こえてきた。

『框様。本当にそのような理由でこの場所に自分たちを呼んだんですか?』

 朧のインカムからは、呆れ声が聞こえてきた。

『ごめんなさい。冗談です』

 翔吾が恐る恐る零と朧を見ると自分を睨んでいた。

『…框様』

『…はい』

 どっちの声かわからないが返事をすると、

『ねぇ? どこがいい? 腕? 足? それとも?」

『!?』

 突然突きつけられた意味不明な言葉。

 二人の内、どっらかに言ったかわからないが一つ分かっている事は、その言葉が自分に向けて言われている事だけ。

『零。框様は依頼人だぞ! すみません。うちの相棒が。それより依頼の方を教えてもらっていいですか?』

『…あぁはい』

(あの、零って少年、いまは少女だけど、俺の事を殺そうとした? まさかね。それに、朧って青年もさっきまでは、優しい雰囲気だったよなぁ…あぁ!)

 翔吾の頭の中に、blackBart を紹介してくれた人物の言葉を思い出す。

 しかし、翔吾は、この人物と直接会った事はない。いつもやり取りはメールだった。

{Black Brid 彼は、闇に生きる探偵。闇しか知らない彼らを決して怒らせてはいけない。一度でも彼らを怒らせたら誰も彼らを止める事は出来ない}

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