第19話

「朧さん! こっちです!」

(一人じゃないのか? 男連れ!)

 翔吾は、女性の視線を目で追うとジーパンにパーカー姿の男性がこっちに走ってきていた。

「玲子! なんで一人で行くんだよ」

「だって、朧さん! 歩くの遅いんだもん!」

 一人だと思ったら突然の彼氏の登場に、翔吾はイルカショーどころじゃあなくなってしまった。

 でも、もうすぐ、探偵との約束の時間なので、気持ちを落ち着かせようと足元に置いていたカバンの中から飲み物(マイボトル)を取ろうと…下を向いたら…カバンの近くになにか落ちている事に気が付いた。

「ん? カバンの近くになにか落ちてる?」

 翔吾はをその落ちていたビニール製で数羽の鳥描かれた小ポーチを拾い上げると、『框翔吾様』と書かれたメモ用紙が飛び込んできた。

「!」

 まだ、約束の時間ではないはず。でも、もう彼らが来てる。

 翔吾は、探偵を捜す為にメモと一緒に入っていたインカムを耳に着けた。 

 すると、付けたインカムに男性の声が聞こえてきた。

『框様! 初めまして blackBart の一夜零と申します』

「…」

 突然始まったインカム越しの自己紹介。でも、肝心なその本人の姿がどこにも見当たらない。

 自分の目の前にいるのは、ポニーテールの女の子とその彼氏らしきジーパン姿の男性。

(まさか…この二人が?)

 翔吾が、声だけで一向に姿が見当たらない零と朧の姿に頭を抱え始めた瞬間…さっきの声とは別の男性の声がインカムから聴こえてきた。

『零! 自分の名前だけじゃあなくて、今の恰好もちゃんと依頼人である框様に伝えないとダメだろう?』

『解ったよ! 言えばいいだろう。框様! いま、貴方に目の前に居るポニーテールの女の子とその彼氏が私達の変装です。そして、ポニーテールの女の子玲子は、私の変装です」

「えっ? あぁすみません。あの? 一夜さんは…」

 一夜零からの衝撃な告白に、翔吾はその場で叫びそうになったが場所が場所なのでどうにか堪えた。

 でも…どう見ても女の子にしか見えない。それ以上に、なんで女の子に変装してるんだ?

『…自分は勿論男性です。 変装は仕事の時だけです。それ以外は絶対しません』

「…」 

『こら、零、框様を困らせないの。すみません」

「いえ? あの?」

「蜩朧と申します。本日は、自分と零を指名して頂きありがとうございます」

 蜩朧と名乗る男性の自己紹介が終わった瞬間、腕時計を見ると時計の針がを11時丁度指していた。

 すると、目の前で喧嘩をしていた零と朧の変装偽装カップルが喧嘩を止め…翔吾に軽く頭を下げると、零(玲子)の手を取り自分の隣に席に座った。

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