第18話

「一夜。人って? 一人じゃあ生きてていけないよなぁ」

「悪い幸也? 俺、急いでっから」

 と無視して幸也の横を通りぬけようとしたら、いきなり腕を掴まれ、行く手を遮られた。

「一夜!」

 俺は、幸也の手を振り払おうとした。

 すると、俺だけしか聴こえない小さな声で、囁く。

「……一夜、俺、知ってるからお前の秘密……」

「!?」

 幸也の言葉に、振り払おうとしていた手が一瞬動きを止めた。

 それを見て、続きの言葉を言おうとしたまさにその瞬間、零のインカムに、

{お前、まだ、学校にいるのか? 約束17時だぞ}

 現在の時刻 16時20分。依頼人の家まで20分

 学校から合流場所まで10分。時間にしたらギリギリ。  

{……5分で行く}

 朧に、5分で行くと返事を返すと、幸也の腕を強引に振り払った。

 教室から幸也を連れ出し、屋上に連れてきた。

「幸也! 俺は……お前を失いたくない。お前は、俺のたった一人の親友だから」

「零どうした?」

 急にお前を失いたくないと言い出した零に、幸也は、どうしたと驚く。

「幸也? 俺はお前を殺したくない。けど、俺の秘密を知られてからには、俺は、お前を殺さないといけない」

 表の一夜零は消え、いま、音風幸也に話しかけているのは、裏の一夜零。

 親友から「殺す」と言われた幸也は、驚きを通り越して固まってしまった。

「……」

「なぁ? 幸也? よかったら、俺の協力者にならないか?」

「協力者?」

 固まっていた幸也が恐る恐る声を出す。顔と体は、固まったまま。

「あぁ! お前だって、死にたくないだろう? 俺だって、お前を殺したくない? けど、この事が俺の上司に……あぁ! 俺、言ってなかったけど、今black Birdって言う、捜し物専門の探偵事務所で働いてるんだ」

「……捜し物専門の探偵事務所?」

 零の言葉に、意外な反応を見せる。

「あぁでも、俺が働いてるのは、普通の探偵事務所じゃなくて裏社会専門の探偵事務所だから」

「……裏社会? なんだそれ?」

「あぁ……ごめんごめん! 幸也には、なんのことかわからないよねぇ? 表の世界じゃあ生きていけない? 例えは……僕みたいな」

 どこに隠していたのか、サバイバルナイフを幸也の左頬に押しつける。 

「人間が生きてる世界だよ! そこで僕は、今日と言う日を生きる為に、探偵をやってるんだ。だからこそ、お前を殺したくない? けど、俺の仲間は、確実にお前を殺すだろうなぁ? お前がどこに隠れようと?」

「……俺は、偶々女装をしたお前を……」

「そんなの俺以外の人間には通じなない?」

「そんな?」

 その場に倒れ込む幸也。

「どうする? このまま殺されるか? 俺の協力者になるか?」

 腕時計を見ながら幸也に究極な選択を迫る。

 現在の時刻 16時24分。5分と行くっと言ったのでもう出ないと間に合わない。

「……お前の協力者になるよ」

 立ち上がり、零が差し出してきた右手を掴む。

「これで、お前は、今日から俺の協力者だ。あぁ! それださっきお前に言った事? あれ全部、嘘だから」

「一夜。このやろう」

 自分に、襲い掛かろうとした幸也の攻撃を軽く交わすと、素早く屋上から出て行き、朧の待つ合流場所に走った。

 こうして、俺は、幸也を、自分の協力者にした。

 ※裏の一夜零の正体を依頼人、ターゲット以外に知られたら殺さないといけないのは、嘘じゃぁなくて真実。

 しかし、零は音風幸也を殺さず、自分の仲間に引き入れた。

 ☆

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