第16話
『では、写真に写ってる人物を捜せばいいんですか?』
翔吾から渡された写真は2枚、1枚には、長身で黒髪の男性が1人で写った写真。そして、もう1枚は、ホテルで、茶髪の女性との密会写真。
『朧さん。一人だけです』
写真を渡したのは、朧。零が、隣から写真を覗き込む。
『はぁ? 二人写ってんじゃん』
怒った声が翔吾のインカムに響く。
『零さん。自分が捜して欲しいのは、天童穂積だけで、ゆかりは、ゆかりは…』
零の呼び方がいつの間にかさん付けになっている。けれど、零は、そんな事を気にする様子もなく、自分の膝で両手をギュとしている目を向けながら、
「朧さん。喉乾いた」
『零!』
突然、インカムじゃなくて演技の会話をしてきた相棒に朧は、慌ててインカムで会話を返す。
『ここから離れるぞ!』
『零!』
もう一度、相棒の名前を叫ぶ。
『朧。隣の席。但し、2つ隣の席な今すぐ見ろ』
『えっ!』
零の言っている意味が分からなかったが、翔吾の席の2つ隣の席に視線だけ移すと、カップルが自分達の事を不思議そうに見つめていた。
『!?』
朧は、慌てて零に視線を戻す。
『俺もさっき気づいた。多分、イルカショーを見てないから気になっただけだと思うけど、もしも場合も』
最悪の可能性を考える相棒に、朧は、受け取った写真を持った来たバックに押し込んだ。
『あの、カップルがこの人をつけてきた可能性だってある。そしたら、こっちが不利』
こんな不特定多数の人が集まる場所では、零達が動き回るのは不利。
『だろ。だから、いますぐ離れるぞ』
翔吾に話し掛けようとした零に朧が待ったを掛ける。
『零。俺にいい考えがある』
そう零に告げると、不気味な笑みを浮かべ、零の腰に自分の左手を当て、自分の元に引き寄せた。
「朧さん?」
零も相棒の考えが理解できたのか、演技に協力する事にした。
「喉は、俺が満たしてやる」
甘い言葉を囁いて零の唇スレスレまで自分の唇を近づけた。
すると、
「男の人、大胆」
「すごい」
「あのカップル。大胆」
二人に視線が集める。例のカップルも含まれてい。
一方、膝の上で両手をギュとしていた翔吾は、突然聞こえてきた黄色に声に、驚いて顔を上げると自分の隣で、一夜零と蜩朧がもう少しでお互いの唇が重なる距離で見つめあっていた。その姿に思わず言葉を失ってしまった。
☆
『お前、絶対楽しんだろ』
『さぁ? どうでしょ?』
『まぁ。お前のおかげで、あのカップルが見てた物も分かったし』
『あぁ。まさか、不思議そうに見てたのが、俺達じゃなくて、俺たちの足元にいた狸なんてなぁ。どこからきたんだろうなぁ』
『知るかよ。それより、いい加減離れよ』
例のカップルが自分達ではなく、どこからか迷い込んだ狸を見つめていた事は、すでに発覚している。なので、もうこの演技は必要ない。それなのに離れない朧に零は、怒りは覚え自分から離れる。
「朧さんの馬鹿!」
わざと恥ずかしそうな顔を作り、荷物を持って立ち上がり出口に向かって走り出した。
「おい! 待てよ」
走り出した零に一瞬視線を向け、バックから綺麗にラッピングされたポケットティシュを出し、翔吾に渡す。
「席ありがとうございました。これよかったら使って下さい」
ティッシュを渡してくる朧に、翔吾は驚き、急いでインカムで話しかける。
『朧さん!?』
『演技です。ラッピングの中に私達の車のナンバーを書いてあります。イルカショーが終わったら車まで来てください』
『分かりました』
それを告げると荷物を持って、零を追って出口に消えて行った。
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