第15話
『あの? いまのは?』
翔吾は、二人が席に着くなり、気になっていたコントの意味を訊ねた。
『あれは、周りに怪しまれないための演技です』
『演技ですか?』
『はい。じゃなかったらこいつと手なんて繋ぎません』
『自分も、演技じゃないなら朧の事を朧さんなんて言いませんし、女装なんて絶対しません。まぁ、そんなことより、框様。今回は、自分と朧を指名していただききありがとうございます』
『ありがとうございます』
2人が同時に翔吾に向かって頭を下げてきた。
この瞬間、この2人(一夜零、蜩朧)が正真正銘、あの日、自分が写真で判断した2人だと判明した。
けれど、零に対する疑惑が拭いきれない。
『一夜零さん? それとも一夜くん? 社長から見せられた写真だけで君たち2人を指名したんだけど、きみ? まだどう見ても10代だよね』
『そうですけど? それがなにか?』
『……』
零からの冷たい返答。
質問した翔吾の方が言葉を失ってしまう。
そんな彼に助け船? を出したのは、相棒の蜩朧だった。
『框様すみません。零に、年齢の話はしないでください』
相棒からのまさかの返答にますます意味が分からなくなる。誰が見ても一夜零は10代だ。
『いやいや。彼、どう見ても10代だよねぇ?』
翔吾の言葉に、いったん間を置いてから朧が理由は話し始めた。
『一夜零は、確かに17歳の普通の高校に通う高校2年生です。でも、Black Bird の一夜零は、名前以外全てを隠しています。表の高校生の一夜零には、当たり前に普通の生活があります。だから……』
『…余計な事を話すな』
『!?』
翔吾と朧の会話に零の低い声が響く。翔吾は、その声に恐怖を感じた。
『框様。依頼内容を教えて貰ってもよろしいですか?』
『そう…ですねぇ」
インカムから聞こえてくる零の声は、恐怖を感じるほど怖いけど、観客席に座っている零は、笑顔のまま自分と相棒を見つめている。但し恰好は、女装。
そのギャップに思わず声がおかしくなる。
『零。その前に、俺からこの人に聞きたいことが』
『なに?』
『お前がここに来たとき、俺に言っただろ。なんで、水族館なんだろうって?』
『あぁ! そうだったなぁ? それは確かに俺、聞きたい? どうしてこんな不特定多数の人間が集まる水族館を待ち合わせ場所に指定したんですか?』
依頼内容を聞こうとしていた零は、朧の疑問により質問内容を急きょ変更した。
『それは…ただ』
『ただ』
二人は、翔吾の言葉に息を飲む。
『イルカが見たかったからです』
『……』
『……』
静寂な時間。
『俺は、そんな理由のためにこんな朝から女装させられたのか』
零のインカムからは文句が聞こえ、
『框様。本当にそうな理由でこの場所に自分たちを呼んだんですか?』
朧のインカムからは、呆れ声が聞こえてきた。
『ごめんなさい。冗談です。本当は、二時間後、奴が現れるんです』
翔吾が恐る恐る零と朧を見ると自分を睨んでいた。
『…框様』
『…はい』
どっちの声かわからないが返事をすると、
『ねぇ? どこがいい? 腕? 足? それとも?」
『!?』
突然突きつけられた意味不明な言葉。二人の内、どっちか言ったのかわからないが分かっているのは、その言葉が自分に向けて言われている事だけ。
その時、自分のインカムに声が聞こえてきた。
『零。ダメだよ。この人は、依頼人』
『そうだったなぁ』
『框様。相棒がすみませんでした』
『いえ。自分も冗談言ってすみませんでした。これがそのターゲットの写真です』
(あの、零って少年、いまは、少女だけど、俺の事を殺そうとしてた? まさかね。それに、朧って青年もさっきまでは、優しい雰囲気だったのにいまは…)
翔吾の頭の中に、あの日の社長の言葉が浮かぶ。
{Black Brid それは、闇に生きる探偵。闇しか知らない彼らを決して怒らせてはいけない。一度怒った彼らを止める事は誰にも出来ないのだから}
★
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます