第14話

「朧さん。ここです」

(一人じゃないのか?)

 翔吾は、女性の視線を目で追うとジーパンにパーカー姿の男性がこっちに走ってきていた。

「なんで、一人で行くんだよ」

「だって、朧さん。歩くの遅いだもん」

 自分のすぐ隣で突然始まった喧嘩。翔吾が止めに入ろうとしたら、自分の足元に小さな袋が見えた。

「なんだこれ?」

 翔吾がその袋を拾い上げると、中にインカムと『Black Biad』と書かれたメモ用紙が入っていた。

(Black Biad! この二人が?)

 翔吾は、真相を確かめる為に袋に入っていたインカムを耳に着けた。すると、インカムから突然男性の声が聞こえてきた。

『初めまして、一夜零と申します。こんな姿で申し訳ありません』

『似合ってるからいいんじゃない』 

『朧』

『すみません。自分は、蜩朧と申します。依頼人の框様ですねぇ』

 驚いて顔を上げると、喧嘩をしている二人の視線だけが、合わせたかのように自分の目に向けられていた。

 翔吾は、怖くなりもう一度腕時計で時間を確認すると、ちょうど十一時を指していた。という事は・・・

(やっぱり、この二人が…でも、どう見てもひとりは、十代だろ。じゃあ、十代に見える女は、本当は男なのか。いや、誰が見ても女だろ) 

 二人、特に零の姿に違和感を持ちながらも『はい』と答えた。

 すると、喧嘩があっさり止まった。

 そして、翔吾のインカムに優しい声で、

『ありがとうございました』

 と最初に朧のお礼が聞こえてきた。

「じゃあ、俺がさっきに座るから」

「朧さん、もしかしてやきもち?」

「違うから」

「かわいい」

 自分には意味不明なコントをしてから、席に着いた。

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