第8話
鈴蘭水族館 駐車場。
「なんでお前と水族館に来ないといけないだよ。それも、また俺だけ女装で」
暗号を解読し、町の中心にある水族館にきた零と朧。二人は、周りに溶け込むため、ダークブラックのスーツから自分で用意したジーパンとパーカーに着替えた。
問題があるのは自分の格好だ。
どうして自分は、ポニーテールのウィッグに、ワンピースを着ているのだろう?
「えっ? 俺が女装したら気持ち悪いだけだろう? それに、女装は、お前の仕事だろう?」
「はぁ? お前それ本気で言ってる? 殺すぞ!」
「……」
女装姿の一夜零は、誰が見ても男性には見えない。
零の身長は155cm。
社長曰く、かわいい顔をしている零は、なにかと女装させられる。
そのせいもあって、相棒である朧に、対する零からの攻撃が日々強くなってきている。
しかし、零もそう言いながらも……そこはプロの探偵だ。
なんやかんだで仕事は最後まで完璧やり切る。
そのため今回も……
『今回は、お前のことなんで呼べばいい? いつも通り朧さん? それとも朧先輩がいい?』
いまにも人を殺しそうだった表情から、天使の表情になった零がインカム越しに朧に呼び掛けについて尋ねてきた。
『……じゃあ、いつも通り朧さんで』
『……了解。でも、今日は、依頼人ついての情報が全くないに等しいから、いつも以上に慎重に行った方がいいかもな?』
『そうだなぁ?』
いつもは、事前に事務所で依頼人と会って多少なり相手の情報を得る事ができる。
しかし、今回はそれが全くできていない。
なので……
「朧さん。早く中に入りましょ? ほら早く!」
自分から朧の左腕を掴み、周りの人に聴こえるような大声で水族館の中に行こうと叫ぶ。
『零!』
そんな零の行動に朧は驚く。
しかし、零の表情と右手にしている腕時計の時間「10:30」を指しているのを見て……
「そうだな! 行くか?」
「うん!」
☆
「ありがとうございました」
朧は、チケット売り場の人におとな二枚分の代金を支払い、チケットを受け取った。
「今日は、デート?」
チケットを受け取った朧に、チケット売り場のおばちゃんが「デート?」と興味本位で訊いてきた。
「はい! 今日は、彼と初めてのデートなんです! だから、今日は、とても楽しみしてたんです!」
と何故か朧ではなく零がおばちゃんの質問に答えた。
「初デート!」
零の「初デート」と言う言葉に、おばちゃんの顔はまぁと明るくなり、隣にいた朧の背中をドーンと叩いた。
☆
『はぁ……』
水族館の中に入った零は、一気に素に戻りつないでいた手を離す。
『仕事はいえ、お前と恋人同士にならないといけないとかマジで最悪。あと、あのおばさん! 俺のこと完全に女と思い込んでるし』
イライラしながら頭を掻きむしる。
『まぁまぁ。それだけ、お前の女装と演技が上手いってことだろ?』
そんな零を慰めながら、朧は、彼の仕事ぶりを褒める。
『はぁ……それは、それで男としての自身(プライド)なくすわ! けどまぁ、仕事だから、最後までやり切りますけど。さぁって、世間話はここまでにしてイルカ広場に行きますか?』
そう朧に告げると再び、離していた朧の腕を掴み、彼の腕を引っ張る形で依頼人が待つイルカ広場がある方向まで歩きはじめた。
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