第3話

「……裏人格?」

 もう一度、今度は、はっきりと口に出す。

「そう。だから、あいつのことを傷つけようとする存在には、俺は容赦しないし、なんならこの世から消えて貰う。でも、それはあくまで零に危害が出た場合のみ。だから、俺が零の代わりに、おれが黒鳥恭輔を助けてやるよ? まぁ? あの男が、零のことを一瞬でも殺すそぶりを見せたら即行殺す。それでもいいから、オレが、約束守ってやるよ? 城谷由梨様」

 サバイバルナイフを押し付けたまま、由梨に顔を近づけるゼロに、由梨は思わず、

「離して!」

 と零の体を払いのける。

 その衝撃で、ゼロから零に戻る。

「いたたたたた。ここの看護師さんは、患者、それもさっきまで死に掛けていた患者を叩きつけるですね?」

「そそそれは……」

 何も言い返せない。

 不可抗力とは言え、怪我人を突き飛ばしたことには変わりない。

「冗談ですよ? それに由梨さん事大丈夫ですか? それ? ゼロにやられたんですよね? あいつ、おれのことになると制御がきかなくなるので」

 まるで、恋人を想うかのように笑う零に、

「かわいい」

「えっ?」

「あぁごめんなさい。余りにもさっきまでとギャップがあり過ぎて」

「ふふふ。そうですね? 由梨さん。僕には、両親がいないです。そして、そんな僕の心と僕自身を護る為にゼロが生まれたんです」

「えっ!」

「由梨さん。もしも、僕の身になにかあったら、この指輪を清水恭弥っていう僕の幼馴染に渡して貰えませんか?」

 由梨に、どこに隠していたのかシルバーの指輪(表面が少し血で汚れている)を手渡す。

「これは?」

「僕の亡くなった両親の形見です。僕には家族と呼べる人間はもういません。でも、清水恭弥には、自分と血こそ繋がっていないけど、僕にもとっては家族みたいな存在なんです。だから、僕の身になにかったら、彼が悲しまない様にこの指輪を渡してください。じゃあ? もう行きますね?」

 由梨が返そうとしたシルバーの指輪を、再び由梨に押し返すと入院着を脱ぎ捨てると、テーブルの上に置かれていた白いシャツとブラウンのズボン(智樹がっ着替えを用意してくれた)に着替え、スマホだけ持って病院しか出て行く。

「待って零……」

 一人、病室に残された由梨は、零のことを追い掛けることもどうすることもできず、ただ指輪を見詰めていた。

 しかし、この指輪には、由梨は気づかなかったが、こんな言葉刻印されていた。

 「Loved ones」:「愛する人」

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