第1話 指輪

第2話

零が病院を抜け出す直前。なでしこ総合病院。

「……解りました。ですが、一つだけ条件があります」

「条件?」

「えぇ。僕は昨日、あの人、ほぼ零距離で殺し合いで、半日ですか死の淵を彷徨ったので、もしかしたら、保護しないで殺してしまうかもしれません。それと、あの人、僕の大事な親友と義兄を手に掛けようとしたんです」

「……」

 零の言葉に、由梨は言葉を失う。

 そして、同時に零の瞳に涙が浮かんでいるのが見えた。

 ただし、実際には泣いてはいない。

「でも、由梨さん。貴女が、黒鳥恭輔を助けたい気持ちも自分に理解できます。だから、自分と賭けをしませんか?」

「賭け?」

「えぇ? 賭けです。自分は多分……いやぁ? 間違いなく黒鳥恭輔を殺します。ですか、こっちの……」

 いきな零の言葉が途切れる。

 そして、零の体が一瞬、横に揺れたと思ったら、

「……全くこっちだって、昨日の傷が癒えてないんだぞ! あぁ? 誰だ! この女?」

「……零くん?」

 いきなり自分のことを「誰だこの女と?」と言い始めた零に、由梨はパニックに陥る。

「あぁ? 殺し屋の女か? おい! 病み上がりの零に、余計な事させるじゃあないよ! あいつを殺す気か?」

 どこに隠していたのかサバイバルナイフを由梨の首筋に押しつける。

 首筋から血が少し流れてくる。

「貴方一体何者? 零くんは一体どこに行ったの?」

 由梨の質問に、零の裏人格であるゼロは、笑みを浮かべながら、

「……俺も零だよ! 但し、裏人格だけど」

「裏人格?」

「そう? 一夜零は、二重人格だよ? そして、俺は、そんな一夜零のもう人の人格?」

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