木『単為生殖』

——どこかの地球ユートピアで。


 新郎がいた。


 新郎は、この世界に足を踏み入れて以来、生活を送っていた。


 新郎は、自身と煉瓦的微小立方体ナノキューブリック製の新婦との間に、子をけた。


 元気で愛らしい、女児だった。


 するとその地球では、女児の誕生に伴って、あるものが出現した。


 乳白色の扉、だ。


 新郎は、その地球にことを、よくないことだと、本能で察知した。


 迷いはいくらかあったようだが……


 新郎は、扉を開ける。


 懐かしい香りを、しばし堪能たんのうする。


 向こう側に、生まれたての女児の入ったかごを、置いた。


 扉を閉めようとする。


 しかし思いとどまり、扉の一端の中央部、ラッチがカチャリという金属音が鳴らす寸前で、慌てて再び開く。


 女児は、消えていた。


 その代わりに、そばの地面には、子供の足跡があった。


 足跡は、どこまでも、続いているようだった。


 後ろを振り返る。


 少し離れた地面に、扉の向こうに置いたはずの、籠が置かれている。


 おくるみに、赤子が包まれている。


 新郎は、慌てて駆け寄って、確認してみる。


 元いた女児と全く同じ外見の赤子が、創造されていた。


 新郎は、新婦と、女児と共に、今まで通りの生活を再開した。


〈金『子守り』に続く〉

 

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