第23話

「お前! また俺たちから逃げるのか?」

 誰もいない無人のバス停で、独りバスを待つ零に向かって、恭弥は叫ぶ。

「恭弥? なんで?」

 いきなり現れた恭弥に、零は、「どうしてここが」と言う表情で恭弥の顔を見る。

「何年、お前の兄貴やってると思ってんだよ! お前の考えそうなことぐらい、手に取るように判るし!」

 本当は、ここにたどり着くまでに、数か所、零の行きそうな場所を回った。

「ふふふ」

「なんだよ!」

「なにも? 流石、お兄ちゃん。弟のことは何でも分かってるねぇ?」

 若干馬鹿にした口調で恭弥に返事を返す。

「ふざけるな! お前? また逃げるのか?」

「……だとしても、お前にそれを止める権利はないよなぁ?」

「あぁ! 確かに、お前を止める権利は俺にはない。けどなぁ? 自殺しをしに行こうとしている人間を止める権利は俺にはあるんだよ!」

 零の元に走っていき、そのまま零を抱きしめる。

「お前が好きだ!」

(……遅いんだよ? 鈍感バカ野郎)

 恭弥に聴こえない様に小さく呟く零。

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FIND OUT Loved ones「愛する人」  蜩朧編 なつかわ @na_tu_ka_wa

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