第21話

「……俺? そんな趣味ないけど?」

 いきなり自分には、お前が必要だと言われた智樹は、恭弥に、はっきりと自分はそんな趣味(男好き)ではないと告げた。

「解ってるよ! さっきのはその……言葉の綾だよ! 俺だってそんな趣味ねぇよ!」

 智樹の返しに、恭弥は顔を真っ赤にしながら、自分もそんな趣味(男好き)ではないと言い返す。

「ふふふ」

「なんだよ!」

 急に笑い出す智樹の胸を軽くどっつく。

「お前、本当に零のことが好きなんだなぁ? 軽くあいつに嫉妬するわ! お前にこんなにも好かれて」

「はぁ? なんで、お前が零に嫉妬するんだよ! 俺とあいつは幼馴染だぞ。それも小さい頃からの」

 そう、俺と零は、小さい時からの幼馴染で、血は繋がっていないが本当の兄弟のように一緒に過ごしてきた。

 そう、だから……今更、俺が零に……

「……恭弥って本当、昔から、他人の変化にはよく気がつくのに、自分の変化には全く気か付かないよねぇ?」

「えっ?」

 智樹の言いたいことがわからない恭弥。

 一方の智樹は、そんな恭弥の表情と様子に、はぁと小さくため息をつく。

 そして、恭弥の右胸を指差しながら、恭弥に問いかける。

「……本当に、お前と零は、ただの幼馴染で、ただの兄弟のなのか? お前だって、本当はもう解ってるだろう?」

「……解ってるよ。そんなことお前に言われなくても」

 そう、俺は、零のことが好きだ。

 けど、俺のこの好きは、恋愛としての好きではなく、

「それでも俺は、今の兄弟以上幼馴染以下の関係を変えるつもりはない。それに……」

 智樹が恭弥が抱きしめる。

「……ごめん。全部お前のせいだよなぁ?」

「はぁ? なんでお前のせいなんだよ? それに? お前? こういうの趣味ないじゃなかったっけ?」

 さっき、智樹に言われたことをまるまるお返しとばっかりとばかりに、ニヤニヤしながら言い放った。

「あぁ嫌いだよ! でも、しょうがいないだろう! お前……いやぁ? お前達は、俺にとって大事な幼馴染で、失いたくない大切な親友だから」

「……」

 両頬を真っ赤にしながらまるで、好きな人にプロポーズするかのように、自分に気持ちを伝える智樹。

 そんな智樹の姿に、恭弥は、ただ顔を見貸すだけで何も言い返せない。

「なんだよ! 言いたいことがあるなら黙ってないで言えよ!」

 黙ってまま何も言わない恭弥に、智樹は言いたいことがあるなら言えよと迫る。

「あぁぁえっと……ありがとう」

「えっ?」

 恭弥の声が小さすぎて聞えなかったのか、「えっ?」と首を傾げる。

「だから、ありがとうって言ったんだよ! この鈍感くそ野郎!」

「はぁ? 誰が鈍感く……って? もういないし」

 叫ぶだけ叫んで、いつの間にか仮眠室から、自分を残し一人出て行っていた恭弥。

 そんな幼馴染兼親友に智樹は、

「……全くどっちが鈍感くそ野郎だよ?」 

 と、恭弥がその場に落としていたシルバーの指輪(零から貰った)を拾い上げる。

 拾い上げた指輪には、小さな二つの星が重ねるように刻印されていた。

 まるで、本当の家族のように二つ並んで。

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