第19話

『……お前を殺すから』

 自分に向かって一切の迷いもなく、刃物を自分の首元に押しつけてくる零。

 その姿はまるで、自分が知っている一夜零ではなく、刑事ドラマに出てくる犯人みたい……いやぁ?・ もしかしたらそれ以上に感情どころか、自分の顔すら見ていなかった。

 ただ、目の前にいる俺を殺そうとしているただの犯罪者そのものだった

「零? 俺は……いやぁ? 俺は、一瞬あいつのことを親友としてではなく、犯罪者として見てしまった」

 そう俺は、拒絶した。

 例え理由があったとしても、人を殺めたあいつを俺は、許すことはできない。それに、もしあいつが罪を償って再び自分や恭弥の前に姿を現しても、

 きっと俺は……

「ドンドン」

 その時、誰が仮眠室のドアを叩いた。

「誰!」

 その音で現実の世界に一気に引き戻される。

「その声は智樹? よかった。智樹! いやぁ? 頼む俺と一緒に零の処にきてくれ!」

 中から聴こえてきた声に、ドアを叩いた張本人である恭弥は、中にいる智樹に向かって自分と一緒に零の処にきて欲しいと頼んできた。

 そんな恭弥の頼みに、智樹は、

「……それはできない」

「智樹!」

「……恭弥。確かにあいつは、俺たちの親友だよ? けどそれは、あいつと会わなかった9年間だけ。なんなら、9年ぶりにあいつに会って、もう一度再確認できた。俺もう、あいつと二度と会うつもりはないし、あいつも俺と会うつもりはない。それに、さっきあいつから言われたよ? 自分は、人殺しだって。恭弥? お前が知っていたんだろう? 零が、2ヶ月前に人を殺したこと?」

「それは……」

 智樹の問いかけに答える事ができない。

「やっぱりなぁ。お前と零って、昔から本当の兄弟にみたいに仲が良かったもんなぁ? 零もお前のこと、本当の兄みたいに慕っていたし、やっぱり俺たち出会うべきじゃあなかったなぁ?」

「智樹! それは違う! 零がお前に……」

 そうだ! 零が智樹に真実を話さなかったように、俺も智樹に零のことを話す事ができなかった。

 そうだ! 俺は智樹のことを心どこかで信用できていなかったんだ。

 だから……

「恭弥? もういいよ」

 仮眠室の扉が開き、部屋の中から智樹が出てくる。

「恭弥? 俺たち、今日限りに親友から、ただの友達に戻ろう?」

 そう言って、恭弥の横を通り抜け離れて行く智樹に向かって、

「智樹! 俺には……いやぁ? 俺と零には、智樹お前が必要なんだ!」

と叫びながら、そのまま智樹に抱きついた。

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