第10話

「……智樹?」

「あぁ!」

 ずっと黙っている智樹に、零が心配そうに声を掛ける。

「大丈夫か? トイレ? やっぱり俺も一緒に行こうか?」

 トイレに行ってくると言っていたのに行かずに、ずっと自分と恭弥の話しを聞いていた智樹に、零が申し訳なさげに提案を投げかける。

「大丈夫! ひとりで行ける! 階段降りて右手だろう?」

「……うん」 

 一緒に行こうかと言ってくれた零の言葉を遮り、紙皿に入った肉2枚とウィンナー1本を一気に口の中に放り込むと、紙皿と割り箸をテーブルの上に置き、零と恭弥に向かって、

「それ! 俺の肉だから絶対食うなよ!」

「食べねぇよ!」

「俺だって食べねぇよ! ってか? お前の食べるぐらいだったら自分の好きな分、焼くし」

  恭弥は、短く、零は、トングとお肉を見ながら、それぞれ違う言葉で智樹に返事を返す。

「ごめん。ごめん。少しからかっただけじゃん! 本当、恭弥はともかく、零は、昔からじょ……」

「あぁ! そうだ! 零! コレ! お前の財布と頼まれた昼飯!」

 智樹の話しに割って入る形で、恭弥が財布とレジ袋を零の前に差し出してきた。

「あぁ! そう言えば、恭弥? お前に買い物頼んでいたなぁ? ごめん忘れた!」

 レジ袋と財布を受け取ると財布をズボンの前ポケットに入れる。

 そして、そのまま中身を確認せずに、テーブルの上に置く。

「おい! 忘れるなよ! こっちは、お前に頼まれたからわざわざコンビニに昼飯買いに行ったのに」

 それなのに、買い物を終えてマンションに戻ったら、部屋にいるはずの零から「今、智樹と一緒に事務所にいるから、恭弥、お前もこっちにこい」って電話で呼びされた。

「だから、それについては俺も何度も謝っただろ! それにしょうがないだろ! いきなり社長に食事誘われたんだから!」

 零も負けずに恭弥に言葉を返す。

「だったら、一言ぐらい連絡ぐらいしろよ! そしたら、俺だって、買い物に行かなくて済んだろう?」

「だから、さっきから言っているだろう!お前が買い物に行ったあと誘われたって!」

 売り言葉に買い言葉になっている恭弥と零に、挟まれどうすることもできない智樹。

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