第9話

捜し物専門探偵事務所「white」 屋上

「はい! 智樹君!」

 村瀬斗真が、紙皿に乗ったお肉(5枚)とウィンナー(5本)を針谷智樹に差し出す。

「あぁありがとうございます」

 緊張しながらも、斗真から紙皿を受け取る。

「智樹君! そんなに緊張しなくて大丈夫だよ?」

 自分から緊張しながら、紙皿を受け取る智樹に、斗真が笑いながら言葉を返す。

「すすすません!」

 その言葉に再び、謝罪する智樹。

 そんな二人の元に、

「俺の親友に、変なことするのやめて貰えませんか?」

「零!」

 トングと肉が入った皿を持った零が現れる。

 そして、智樹を護るように、斗真の前に立つ。

「智樹? 大丈夫か? この人に何か変なことされてないか?」

「大丈夫。紙皿貰っただけだから。俺、ちょっとトイレ行ってくる?」

「トイレの場所解るか?」

「大丈夫。さっき恭弥に場所訊いたから」

「あぁそうなんだ! ってか? 恭弥、いつの間に!」

 智樹の告白に、驚きの表情を見せる。

「んん? 誰か? 俺のこと呼んだ?」

 一ノ瀬遼&月見坂伊吹、そして、零に、呼ばれて急きょ事務所にやってきた蜩朧と一緒に談笑しながら焼き肉を食べていた清水恭弥が、零の声に気づき紙皿を持ってこっちにやってきた。

「呼んでねぇから!」

 呼んでもいないのに、自分達の元に来た恭弥に、零が間髪入れずに突っ込む。

「えっ? だって、零!今、俺の名前……」

「呼んでないから! なに、勘違いしているんだよ」

(はぁ? 俺? ただお前に、呼ばれたから来たのに、なんでこんな言われないといけないのだ!)

 と心の中では、思いつつも、それを表面には一切出さずに、

「あっそ! でも、もうこっちに来ちゃったから! 俺もこっちにいようかな? 智樹もいるし。それに、お前にちょっと聞きたい事もあるし?」

「訊きたいこと?」

 恭弥の言葉に首を傾げる零。

「あぁ! いま、朧さんから訊いたんだけど、朧さん。お前の部屋のすぐ上の階に住んでいるだってなぁ?」

「あぁ! 1ヵ月前(11月分)、家賃を払いに行った時、俺の部屋の上の階の住人(20代後半の男女)が、来月、結婚を機に奥さんの地元に戻るから、誰か知り会いで、部屋を捜している人いないって大家さんから相談されたから、偶々、部屋を捜していた朧に、自分がいま住んでいるマンションを紹介しただけ」

「本当かよ! ってか? 二人で一緒に暮らせばいいだろう? お前ら、付き合ってんだし」

「!」

 恭弥が突然やってきたことで、トイレに行くタイミングを完全に逃してしまっていた針谷智樹は、再びトイレに行こうと3人の元を離れようとした瞬間、突然恭弥の口から飛び出した「朧さんとは一緒に暮らせないのか?」言葉に驚き踏み出していた足を戻す。

 それどころか、今、恭弥?

(いま、付き合ってるって言わなかったか?)

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