第7話

「おい! なんで外に出てきたんだよ! 恭弥を待っとかなくていいのかよ!」

 恭弥にいきなり買い物を頼み、リビングから追い出した零は、智樹を連れてマンションの外に出てきた。

 智樹は、いきなり自分のことを外に連れてきた零に、その理由を尋ねる為、零の両肩を掴む。

 すると、その手を零が、ため息をつきながら払いのける。

「……うるせぇねぇ。そんなに恭弥が気になるのかよ! スマホ持っていたんだからいなくかったら電話してくるだろう!」

「……」

 さっきまでとあきらかに、態度と口調が違う零に、智樹は言葉を失う。

 しかし、肝心の零は、そんな智樹の様子に、気づくことなく、髪の毛を掻きむしりながら、智樹に声を掛ける。

「……おい!」

「あぁはい!」

「お前、本当に清水恭弥……いやぁ? 零の友達なのか?」

「!」

(はぁ? なに言っていんだ! こいつ?)

 零の質問の意味が解らず、彼の顔をじっと見る。

 そんな智樹の視線に気がついたのか、零が、「はぁ」と小さくため息をつく。 

「まぁ? どっちでもいいか? あっちの俺が、こいつに全てを打ち明けると決めたんだから、こっちの俺が、色々口を挟むべきじゃあないと思う。けど!」

 いきなり黙り込んだ零(?)は、智樹の両肩を掴む。

「!」

 零なのに、零じゃない? 人物にいきなり自分の名前をフルネームで呼ばれた智樹は、驚きながらも、今度は、逃げずに零の顔をまっすぐ見る。

「あいつは……この9年間。本当の自分を偽り、本当の意味で誰にも一切心を開かず、誰もが当たり前に得られるはずの小さな幸せさえ、あいつにとっては、幸せどころか、猛毒しかならない。それどころか……いまのあいつには、家族と呼べる人間も、ましては、帰る故郷(実家)すらない。解るか? 今のあいつを受け入れるってことは、そんなあいつの過去……」

 言葉を一旦切り上げ、空を見上げながら、

「智樹? 今、俺? お前から見てどう見える?」

「えっと……別に普通だけど?」

 言葉を選ぶながら、当たり障りのない返事を返す。

「そっか? 別に普通か? なぁ? 智樹?」

「んん? なに?」

 ヤバい! 殺されると一瞬身構えて、思わず一歩後ろに下がってしまった。

「ふふふ。そんなに怯えなくても、貴方にはもう、何もしませんよ! それに……あぁ! 残念、自分のターンはもう終わりみたいです。あとは……」

「零!」

 意味深な言葉を残し、自分の方に倒れ込んでくる。

 そんな零(?)を必死に正面から受け止めながら、智樹は、零の名前を呼び掛ける。

「……智樹?」

 すると、その呼びかけに、零が返事を返す。

「零! 大丈夫か? お前、いきなり倒れたぞ!」

「大丈夫。いつもことだから!」

 手を振り払いながら、智樹から離れ、服に着いた汚れを振り落とす。

「こっちこそごめんなぁ? いきなり倒れて? びっくりしただろう?」

「あぁぁ! うん。けど、本当に大丈夫なのか?」

 いつものことって? お前、そんなにいつも倒れてるのか?

「あぁうん! ちょっと寝不足なだけだから。それより、お前? ゼロに会った?」

「えっ?」 

 零からの唐突な質問に、智樹は思わず言葉に詰まる。

 そして、どうしてそれを言わばかりの表情で、零の顔を見つめる。

「ふふふ」

 自分の顔を見ながら、突然笑い出す零。

「零!」

「ごめんごめん。ってか? やっぱり出てきちゃったのか? あの人? もう! 大丈夫って言ったのに」

 泣き笑いで出た涙を左手で拭いながら、こっちにいない誰を想いながら満面の笑みを浮かべる。

「智樹?」

「あぁ……ごめん! なんでもない。それより、零? さっきの質問だけど……」

「智樹? 今から俺の職場に行かない?」

「……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る