第59話

隆太先輩はフッと笑って、


「今日のところは諦めるわ。」


と言い、アタシの手を離し、荷物を足下に置いた。


「亜美、お前も帰れ。」


「あ…」


亜美先輩は部屋を出ていった隆太先輩のあとをついていった。


「亜美先輩、廣田くんに用事あったんじゃないかな?」


「用事があったのは、俺にじゃなくてりゅーちゃんにでしょ。」


なぜかあたしはまだ、廣田くんの腕にすっぽりと、収まったまま。


「あの」


「ん?」


「そろそろ、いいのでは?」


「うん?」


「あっ…」


廣田くんはあたしを解放するどころか、うなじにキスをしてきた。


あたしの身体はゾクゾクして、廣田くんに回された腕を両手で掴んだ。

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