第29話

「俺は無理。紗香としかしたくない。」


知己がリビングのドアを開けて入ってきた。


「紗香は飾って愛でる人形じゃない。生身の人間だよ。そんなこともわからないアンタに、紗香は渡さない。」


「渡さないって、紗香は俺と付き合ってるんだよ?」


「アタシ、優心とは別れる。」


「紗香?」


「アタシも、優心に本音を話せてこれなかった。

浮気も、ホント全然許せないのに、一緒にいたいから許したフリして我慢して。

こんなの、付き合ってるって言えないと思う。

付き合ってる意味がないと思う!

アタシは、お互い、ちゃんと向き合える人がいい。」


「紗香…」


「優心のことは、ホントに好きだったよ。

ずっと一緒にいたかった。

でも、我慢してまで、傷ついてまで一緒にいたくない。」

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