第96話

「もしかして、彼氏からだった?」


「うん。まぁ。」


「ごめん、俺の声聞こえただろうな。誤解させてたら……」


「大丈夫だよ。」


「大丈夫って?」


「私と篤史は友達でしょ?」


「そう思ってるのは、奏だけだよ。」


「篤史?」


「俺、あれからずっと、奏のことが忘れられない。忘れようと思って、何人かの女と付き合ったけど、全然忘れられなかった。あの時、すんなり別れなきゃよかったって、何度も悔やんだ。」


初めて見る、篤史の涙。


「篤史……私、もう篤史のことは、友達としか思えない。帰るね。」


鍵を篤史に渡し、店を出た。

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