第30話

昼休み。


あの子が友達と屋上にいくのを見計らって、俺も、屋上にいく。


「安藤さん。」


「…坂本くん。」


ビクッとしながら、返事をするキミ。


手に握りしめたコインを、キミの手に握らせる。


掌をパーにしたキミは、『?』て顔をする。


「去年の夏、ここの自販機で借りたお金だよ。」


記憶を遡っているのだろう。斜め上を向いて、


「あれ、坂本くんだったんだ!」


「誰だと思った?」


「あのとき、スポーツ刈りだったから、今と雰囲気違って気づかなかった!」


ああ、そっか。あのときのことは、覚えてたんだ。


それだけで嬉しくなる。


「あの時はありがとう。」


「どういたしまして。でも、まさかお金が返ってくると思わなかったよ。」


「そうだね。お互い連絡先も、名前すら知らなかったし。」


「うん。」


「食べるの邪魔してごめん。」


「あ。何か食べる?」


手作りの弁当箱から、俺は、卵焼きをひとつ取った。


ほんのり甘くて優しい味だった。

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