第10話 聖域占拠
俺は、いつもと同じくお嬢様に呼び出されていた。昨日のヂブリが効いたのか物凄く眠い、立ったまま寝落ちしそうになる程だ。
「はぁーあ」
「あら、眠そうね、夜中にシコシコ何かしてたのかしら」
「そうだよ、朝まで妹とシコシコヂブリ見てたんだよ」
「やだ!妹さんとっ妹さんもさぞ心苦しかったでしょう」
「どう言う意味だっ!」
俺は、そう言うと高笑いが後ろから聞こえて来る、どうやら女性の様だ、なんだか聞き覚えがある様な無い様な…気がしないでもない。
「ふっはぁっはぁっはぁっはぁっ!ふっはぁっはぁっはぁっはぁっ」
「お前は⁉︎」
俺は、自分の目を疑った、眼前には、ガニ股歩きで近付いてくる向日葵の姿だったからだ。
「忘れる訳無いわよね?ダーリン?」
「誰がダーリンだ!てゆうかなんで向日葵がここに居るんだよ!」
「知らないわ、貴方が尾行されてたんじゃなくて?」
「せいかーい!おかしいと思ったのよね〜向日葵の色仕掛けは、通用しないし体育倉庫の扉は、勝手に閉まるし、あんたが裏で糸を引いていたとはね…氷の女王様?」
「氷の女王?ププっお前そんな二つ名で呼ばれてんのかよ!」
「うるさいわね皆んな勝手に言っているだけよ、不愉快だわ」
お嬢様は、少し照れた様に否定した、余り騒ぎ立てられるのは、嫌いな様だ。
「ダーリンは、何も知らないのね、この女は、入学してから三ヶ月、毎日の様に告白され続け、もう既にBランクまでいってるみたいじゃない?気付けば百人切りの氷の女王、北条美月姫の名は、一年生じゃ知らない人は、居ないでしょうね」
「何でこの女の方が向日葵よりランクが上なのよ…ギリギリギリギリ」
向日葵は、僻みを込めながら爪を噛み始めた。まぁ性格は、兎も角容姿だけは、容姿だけは、一級品だからな、納得は、いくがあのBランクの飯を食えるのは、羨まし過ぎる。
「私と貴女じゃ品格の差が違い過ぎるもの、当然ね」
平然と向日葵を煽るお嬢様は、流石だと思った。そして、怒りゲージがMAXを超えた、向日葵の頭からは、湯気が湧いていた。
「貴女もこの男と同じ様に殺す…」
そう言うと、向日葵は、お嬢様に掴み掛かった。二人は、取っ組み合いになり額をぶつけ合い始めた。
「そうでしょうね、貴女みたいに心に血が通ってない氷の女王になんかなりたくないもんねー」
「それじゃあ私を追い抜かす事は、一生無理そうね」
二人の戦いは、宛ら永久凍土と灼熱の太陽の戦いに見えていた。
「ここは、俺に免じてよっ喧嘩すんなって!」
二人は、同時に振り返り怒りに満ちた表情を俺に向けた。
「貴方の顔の何処に免じる要素があるのかしら!」
「鏡見て出直してきたら?」
「お前らそこは、意気投合すんのね…とほほ」
「これじゃあ作戦会議どころじゃないわね、誰にも気付かれない拠点を見つけないと…」
お嬢様は、親指の爪を噛みながらそう言った、そして、スタスタと歩き出し、それを追う様に向日葵も後付いている。
「何で、貴女も付いて来るのよ!」
「向日葵は、あんた達の敵なの!だから、とことん邪魔してやるわ!」二人は、睨み合いながら校舎へと歩いて行く。
「貴方も来なさい!」
「本当寝てないから寝かしてくれよ…」と俺は、嫌々二人に付いていく。
そこからの二人は、凄まじかった。暴れ馬が如く拠点になりそうな場所をしらみ潰しに探したのだった。そして、たどり着いた所は、校舎の端人気の無い地下室だった。
「はぁはぁはぁはぁはぁ」
「はぁはぁはぁはぁはぁ」
「私に付いて来れるなんてやるじゃない…はぁはぁ」
「あんたもお嬢様にしちゃ走れるじゃないはぁはぁ」
二人は、同時に扉を勢いよく開け、同じ事を叫んだ。
「頼もう!」
俺は、ヘロヘロになりながら追い付くのがやっとだった。部屋に入って途端に、自動で扉がバタンッと閉まり、俺達三人は、暗闇に包まれていた、そして、ボーカロイドの様なPC音声が部屋に響く。
「早く用件を言いなさい!まぁあんたの言う事だから聞いてあげなくもないんだからね!」
「なぁこの変な声何なんだよ?」俺は、お嬢様に問いかけた。
「変な声とは、失礼なっライズたんに謝るでござる」
「情報屋よ、ここで向日葵さんの情報をラヴポイントと引き換えに貰っていたの」
「まぁそうでしょうね、向日葵の事、北条さんが知ってるはずがないしね」
えっ?えっ?二人共さっきまで貴女とかあんたとか言ってたよね?この短期間でさん呼び?認め合っちゃったって事?女の友情ってやつ?俺は、まだ苗字ですら呼ばれて無いのに…カチャカチャと奇妙な音が聞こえてくる。
「此処を占拠するのが一番手っ取り早く一億二千万への近道だと考えたわ」
「無視するなでござる!難攻不落の我が聖域へ入れるものなら入ってみるでござる!はぁっはぁっはぁ?」
PC音がいきなり男の声へと変わった、それは、何故か?向日葵とお嬢様が聖域とやらに侵入したからである。どさくさに紛れて俺も侵入に成功した。聖域の中は、教会の懺悔室の様な間取りだった。PCデスクの後ろ側には、ズラリとクリアケースが並べられ、収納には、ありとあらゆるアニメフィギュアが飾らせていた。
「ダイヤル式南京錠を破っただと?」
難攻不落と言ってるくらいだからもっとスゲェセキリティかと思ったけど思い過ごしだった様だ。
「ピッキングぐらい乙女の嗜みですよ」お嬢様は、ドヤ顔でそう言った。
「観念して私達にこの地下室を開け渡してよっお願い!」
「色仕掛けには、屈指無いでござる!はぁっ!もしや貴殿は!」
「おっおっー!ゲヲの!」
「そうでござる!助けて下され!」
「貴方知り合いなの?知り合いでもないけど…ギャルゲー譲っただけだ」
「えっ」
「引くわー」
二人の視線が段々と冷たくなっていくのがわかる。
「今後の為に勉強しようと思っただけだって!恋愛に教科書なんてないだろ?」
「参考書ぐらいあるんじゃ無い?」
「うん、雑誌とかにも書いてあると思う…」
「貴殿も拙者の敵と言うのか…」
太った身体を揺らしクリアケースを背にし手を広げた。
「この子達は、拙者が守り抜いて見せる!」
向日葵が徐々に近づき、オタクの頬に拳をクリンヒットさせ倒れ込んだ。
「はぅっ暴力は、反対でござるぅ」
この人達は、ヤクザか何かななのか…
「これが良さそうね…このフィギュアがどうなってもいいのかしら」
お嬢様は、ど真ん中に配置してあるフィギュアに目を付け手に取りハサミを突き付けたのだ!
「ライズたーん!」
「どう?この部屋を開け渡し情報も私達に流しなさい?」
「クッ拙者が悪に屈するとは…」
「わかったのかしら?」
「わかった…わかったから…ライズたんだけは…」
「わかった返してあげます」
お嬢様は、元にあった場所に戻しオタクの方を向き直した時だった、お嬢様の肘がライズを直撃したのだ、そして、ライズは、落下を始めた。その瞬間全てがスローモーションに見えた。
「゛い゛やーーー゛ラ゛イ ズ゛た ー゛ん」
俺は、声より先に身体が動いていた…
「間に合えっ」と手を伸ばす。
気が付けばポスッと手の平にライズが乗っていた、
「ふぅ〜危ねぇ危ねぇ」
「はいよ!」と俺は、ライズをオタクに渡した。
「感謝を…この亜仁目 大介…最大級の感謝を…」
オタクは、ライズを抱き締めながら泣き崩れた。
「北条さん、さっきは、敵って言ったけど向日葵も仲間に入れてくれない?」
「それは、ありがたい申出だけれど分前が減ると私も困るのよ」
「さっき一億二千万って言っていたけどもっといい方法があるよ」
「それって…」
「舞踏会が開かれるのは、年に一度と言う事は、王様と姫合わせて年に二億、全て取れば六億になる、これなら分前も減るどころか増えるって訳よ」
「それは流石に考えが甘いんじゃないかしら上級生達も一筋縄では、いかないわよ」
「宝くじだって買わないと当たらないよ」
「はぁ傲慢ね…わかったわ…向日葵さん協力しましょ」
二人は、固く握手を交わした。
「貴方達…コキ使ってあげるから覚悟しなさい…」
「たっぷりね…」
まさかの悪魔のタッグに俺と大介は、抱き合いながら震えていた…そして、俺達四人は、チームとなり新たな活動拠点を手に入れたのだった。
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