第9話 妹とオタク

先日、体育館にて、向日葵討伐後、向日葵に、俺とお嬢様の関係を悟られる訳には、行かないので俺達は、別々に帰路に着いついていた。シャワーを浴び、家族で晩ご飯を囲み、その後、ベッドで布団を被り、ようやく人心地ついたところだった。

「今日は、疲れちまったなーあっとっ」

 腕からつま先まで伸びをして今日のつかれを取ろうとしていた。伸びが終わると布団に腕を戻し意識を失い掛けたその時だった…

「おにぃ!ゲヲ行くよ!」

 そう言い扉が勢いよく開いたのだ、そこには、仁王立ちをしている妹の姿だった。コイツの名前は、八王子花純中学3年生になる、俺の妹だ、俺が言うのもなんだが容姿は、整っている方だと思う茶髪が目の色と合っているからだろうか統一性がある気がする。そして、モフモフなパジャマに身を包んでいた。

「゛あ?勘弁してくれよ、今日は、精神的に疲れてんだ!寝かしてくれ」

 ボフッ布団を通し妹の体重が俺に襲い掛かる。

「ゴファッ」

「ダーメー金曜ロードショー見逃しちゃったんだもん」

「このご時世サブスクっつうもんがあるだろうがよ」

「ヂブリなんだもん何処にも配信してないんだもん!トーロロ!トーロロ!」

 自分の欲求に忠実な妹がたまに羨ましくなる。

「あぁなぁたぁ、トォロォロォって言うのぉねぇ⁉︎」

 徐にトロロの登場人物の真似をして俺を煽ってくる。本当に面倒だ。

「ドォォー゛ロォォー゛ロォォー」

「はい!トロロ見れたね、寝ましょうね」

 花純は、立ち上がり持参した、とうもろこしのぬいぐるみを抱き叫び出した。

「お兄ちゃーーーーん!………お兄ちゃーーーーん!…………お兄ちゃーーーーん!」

「兄貴の部屋でマイちゃんの名シーンを再現するのは、やめろ!」

「おにぃが来ないとずっと叫ぶから!お兄ちゃーーーーん!」

「純太!そのマイちゃんうるさいから早く行ってやんな!」

それは、一階からの母の怒声だった。

「゛あーもうわーたっよ」

「四十秒で支度しな!」

 花純は、完全にヂブリの頭になっている様だ。


 二人で夜道を自転車で飛ばし、ゲヲにたどり着くと花純は、そそくさと店内の奥の方へと消えて行った。

「はぁーあ」

 眠さの余りあくびが大きくなっているみたいだ。細めた瞳の視界に入って来たのは、ワゴンセールと貼り紙をしてあるワゴンだった、その中には、中古のゲームがビッシリ詰まっている、型落ちと言う奴だろうか、そして、一つのゲームを手に取ってみる。

「ギャルゲーねぇ〜今後の勉強の為に買っとくのもありか…」

「あぁ‼︎」

 男の驚いた声が店内に響いた。その声に俺も驚いてしまっていた。

「そそそ…それは⁉︎トゥリーハート…生産は、したものの、製作陣の不祥事が発覚し販売中止となった門外不出の幻のギャルゲー…だがフライング販売した店舗があり売れたのは、たったの二十本、店舗側は、回収を試みたのも虚しく、回収の申し出は、なかったと言う…こんな所でお目に掛かれるとは…」

長々と中古ゲームの説明を始めたのは、驚いた声の主だった。彼の姿は、なんと言うか…独創的だ、身長は、百六十前半と言ったところで赤いバンダナを額に巻き黒がかかっている、丸メガネを掛け、赤いネルシャツをチノパンに入れていて腹の肉がベルトに乗っている、ベルトの上には、ウエストポーチで隠れている、背負っているリュックには、丸めたポスターが2本刺さっており両手にも大量のアニメグッズが入った紙袋を持っていた。何処からどう見てもオタクと言う人を生で見たきがする。

「あっこれ買う?」

「いいんでござるか?こんな貴重な物を…」

「そんな高いのこれ?」

「市場では、十万は、下らないでござるよ?」

「じゅっ十万⁉︎これが…ん!やるよ!」俺は、ゲームを差し出した。

 オタクは、呆気に取られ顔をしている。

「ほっ本当にいいんでござるか?十万ですぞ?」

「まぁ俺が持ってるより楽しんで使ってくれる奴が持ってる方がいいだろ、だからやるよ!まだ俺のもんでも無いしな」

「貴殿の様な心の綺麗なお方に出会ったのは、初めてでござる、辱い…では、御言葉に甘えて」

「貴殿に、神の御加護があります様に…」

「あっうん、ありがとう…」

「あっもうこんな時間、零の使い魔のリアルタイムが間に合わないでござる!それでは、また!」

 オタクは、ゲームを手に取りレジへと進んだ、キャラの濃い人だったな、まぁ振り切ってて俺は、好きだけどな。

 ダッダッダッダッと妹が大量のDVDを両手に持ち戻ってきた。

「おにぃ見て見て!全部借りちゃった!」

「それは、借り過ぎだろ!」

「え〜いいじゃん!そう言っておにぃも観たいくせに〜」

「大量に借りるのは、辞めた方がいいぜ!」

 俺は、キメ顔でそう言った。

「やっぱ観たいんじゃん!誠司くんの真似しちゃって〜」

 俺と花純は、DVDを借りた後、家に戻った。そして、俺達は、朝までヂブリ祭りだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る