第7話 向日葵 討伐戦 1

あれから三日が経ち、俺は、騒がしい食堂に一人、昼食を取っていた。

「向日葵の奴ほんとに来んのかよ」と思いつつ煮干しを口に放り込んだ。

 つい、二時間前の事だ、俺とお嬢様は、人気の無い体育館裏で作戦会議をした事を思い出していた。

「今日決行しましょう」

「決行っつったってよ、向日葵だってそんな、ひょいひょい着いてくる馬鹿じゃないだろ」

「手筈は、整っているわ、今セバ子があの子の周りで、それとなく噂を流しているわ」

「セバ子って瀬馬さんの事か⁈先生にでも化けてんのかよ!」

「違うわ、女子生徒によ」

「そんなの絶対バレるに決まってるだろ」

「セバスチャンは、そんな、ヘマは、しないわ…そうそうこれを渡しておくわ」

 そう言うとお嬢様は、十円玉位のパッチを渡された。

「何に使うんだよこれ?」

「靴の中に仕込んでおきなさい、それを踏めばラヴポイントの下降が防げるわ」

「こんなの何処で手に入れんだよ」

「秘密よ」

「さいでっか」

 一方その頃、セバスチャンは、と言うと…

「今よ!」

「マジ最悪なんですけどーてか皆んな知ってた?相手から取れるポイントゼロ過ぎても取れるんだってーほんとMK5なんですけどー」

 女子生徒の井戸端会議に潜り込み、向日葵が通り過ぎるのを見計らい、情報を与えていた。

「てゆうか、あんた誰?」

「ん?何言ってんのよ!セバ子よ!セバ子!」

「あっ何だ、セバ子かーアハハハ」

「キャー不審者よー」

 セバさんの姿は、明らかに女子高生には、見えなかったと言う。


 不審者騒ぎが終わり、時間は、昼休みに戻る。

校内放送で不審者がああだこうだ言ってたけどあれセバさんだよな、大丈夫かよ、下手したら捕まっちまうぞ、ほんとあのお嬢様は、人を顎で使いやがる、いっぺん瀬馬さんの垢でも煎じて飲ませてもらえばいいんだ。と思った矢先だった。

「じゅーんくーん!」

 ヒョイっと出てきた向日葵の顔に驚きを隠すのが精一杯だった。平常心、平常心、平常心、そうだ!お嬢様からもらったこのパッチを…ポチッ…イテェ尋常じゃねぇぞこの痛み電流が足の指に突き刺さったみたいだ!早くお嬢様に連絡を…俺は、視界に入った画面を操作しお嬢様に電話を掛けた。トゥルルルチントゥルルルチン…

「釣れた様ね」

「釣れたけどどうすりゃいいんだよ!何話していいかわかんねぇから無視してるけどよ」

「そのまま無視しなさい」

「それでいいのかよ!何かアクション起こさなくていいのかよ」

「いいのよ、そんな簡単に許す安い男じゃない事を演出するのよ」

「おっおうわかったやってみる」

 俺は、平静を装い、昼食を黙々と口に放り込む。

「ねぇ〜じゅんくん怒ってる?…」

 プックリ唇に指を置いた向日葵は、潤んだ瞳を俺に向ける、何が怒ってる?だ!怒ってない方がどうかしてんだろ!俺がどんだけ傷付いたと思ってんだ!それに何だ!その昼食は、!Cランク昼食じゃねぇか!俺を騙したポイント至福を肥やしやがって!舐めとんのか!と心が叫んでいた。

「そうだよね…向日葵の事嫌いになっちゃったよね…でもっ!わかって!じゅんくん!あれは、向日葵の本心じゃなんだよ…」

 徐に、向日葵は、俺の手を握る、お前、手を握るのは、反則だろっ!声を出すな俺!そのまま無視し続けるんだ!

「あんまり話したくないんだけどじゅんくんだから言うねっ!」

 向日葵は、瞬きと同時に涙を飛び散らした。

「向日葵の家ってね…ネグレクトって言うんだって…謂わゆる虐待?向日葵も良くわかんないんだけどね…」

「昔からお母さんとお父さんは、お酒が大好きな人達なんだよ、毎日昼間から飲み歩いてさ、帰って来る頃には、ベロンベロンで訳の分からない喧嘩は、始まるし家には、ご飯も無い訳、向日葵だけなら、まだいいんだけど、下に四人も妹弟が居るからさ…今まで苦労した分向日葵が幸せにしてあげたいんだよ」

「だからこの学園でお金持ちになろうって決めて入って来たのに…言い訳かも知れないけど向日葵、じゅんくんの事、本当は、騙したくなかったんだよ!信じて!ポイントだって返すから…だから…」

「向日葵ね…じゅんくんが居なくなってから気付いたんだ、大切な人って失ってから気付くんだなって…」

゛う゛うっこのパッチがなかったら危なかったぜ、俺は、もうお前の演技には、騙されねぇぞ、どうせさっきの身の上話しだって嘘に決まってんだ

「それは、どうかしらね、情報によるとネグレクトは、本当見たいね、一度児相も入っているみたいよ、まぁあなたを騙したくなかったて言うのは、嘘だと思うけれど」

「その情報もっと早く教えてくれよ!」

「考える時間をあなたに与えたら同情して、何も出来なくなるでしょ」

「゛うっ一理ある…」

「まぁ要するにその子は、妹弟の為に覚悟決めて学園に来てるって事よ…あなたとは、大違いね」

「ああ俺は、目的も何もねぇただ家が近いだけでこの学園を選んだよ…お前らからすれば俺がどれだけ甘ちゃんだったかってのも今なら分かるよ、俺は、真剣な奴には、真剣に向きあいてぇ!」

「フフッやっと覚悟が決まったみたいね…その子が諦めた時に今日の体育の時間、体育倉庫に来る様に誘いなさい…」

「了解………」

「自業自得だよね…じゅんくんをこんなに傷付たんだもんね…向日葵は、じゅんくんの隣に居る資格なんてないもんね…今まで…ありがとね…」

 向日葵は、そそくさと立ち上がりその場を去ろうとした、俺は、それを阻止すべく腕を掴んだ。

「ちょっ待てよ…」

「今日の体育の時間、体育倉庫に来てくれよ…」

 向日葵は、振り返り涙を浮かべていた。そして、いつもと同じ陽だまりの様な笑顔を俺に向けた。

「うんっ絶対行くねっ」

 と向日葵は、食堂を後にした。

「フフッ後は、あの子を料理するだけね!」

 お嬢様の陰謀めいた笑声が頭に響く。

「お前料理とか怖ぇよ」

「シェフは、あなたなんだから気合い入れなさいよ!」

「はいはい!わかってるって!」

 これが俺と北条美月姫と初の共同作戦の始まりである。

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