第4話 可愛 向日葵

それは、突然だった。俺は、学園のパンフを熟読していた。すると床をコロコロ消しゴムが転がって来るのが見え、

手を差し伸べた瞬間、柔らかな感触が…モニュモニュ

「きゃっ」

一瞬時間が止まった、そんな感覚が俺を襲っていた。なんだ?金髪?サイドテール?小柄な女の子が視界に入って来たのだ。

「ねぇ…離してくれる…かな…」

「あっごっごめんっ消しゴムが転がって来たから取ろうとしただけなんだ!」

 俺は、慌てて彼女の手を離した。

「ううん、向日葵が消しゴム落としちゃったからいけないんだもん、純太くんは、悪くないよっ!」

「俺の名前覚えて…」

 突然の不意打ちに俺は、思わず心の声が出てしまっていた。嬉しい…

「ん?そんなの当たり前だよ、さっき自己紹介したし、それに…純太くん印象的だったから…」

 その溜めは、何だそんなぬ顔を赤らめて、印象的って事は、つまり俺が気になっているってそう言う事ー?こんな陽だまりの様な笑顔をする子…正直言ってタイプだ…クソっお日様の香りまでして来やがった…はっ!待てよ、ここを何処だと思ってるんだ!恋愛学園だぞ!この子もどうせ学園の制度に踊らされてる学生なんだ!騙されるんじゃない!俺!

「はちゅおうじ純太くん…?」

「あっうん、それは、やめてくれ…緊張してたから…ほんとやめてくれ…カッコ悪いから!」

 顔から火が出そうだ。この子が気にしてたのは、俺じゃなく噛んだ事だったのかーまぁ俺の事には、変わりないけど…

「全然そんな事ないよ〜!気にしてるの多分、純太だけだよ?向日葵は、可愛いって思ったよ!」

 近い!近い!目でかっ!鼻ちっさ!そんな可愛い顔を近づけたら、惚れてしまう!

「慰めてくれてありがとう…えっと…」

「あーあ覚えてくれてないんだっ!ショックっ!」

「ごめんっ覚え気が無かった訳じゃないんだ!クラス三十人も居るとなかなか…」

「ふふっう…そっ!ちょっとイジワルしただけー!べー」

 うっなんて可愛いあかんべー何だ!

「向日葵の名前は、可愛 向日葵、絶対忘れさせないからねっ!」

 向日葵のウィンクが俺の心を特大の矢で撃ち抜いた。そして予鈴が二人を切り裂いたのだ。

「あっ授業始まっちゃう!お昼一緒に食べようよ!また後でね!」

「うっうん…」

 鼓動が鳴り止まない…

「…ドクン…ラ…ドクン…ト…ドクン…た」

 何か音声が聞こえたと思ったが俺は、そんな事、気にしてなかった。それから昼までの時間、授業に集中する事が出来なかった。そして僕と向日葵は、体育館ぐらいある食堂に着いていた。

「さすが伝統ある学園って自称するだけは、あるな」

「ねぇ!ねぇ!コレ見てよ!純太くん」

「ヘェ〜これがAランクランチね〜一十百千万十万ゲッ一食十二万もすんのかよ!」

「そうだね〜でもAランクに成れば無料なんだよ〜凄いよね!向日葵達まだ入学したてだからあっちだね!」

 向日葵は、そう言うとGランクのを指差していた。そして列に加りトレーに小鉢、大皿、飲み物、お椀を入れ席へと着いた。

「まぁわかってたけど、これはさすがに酷くねぇか?」

「そうかな?素朴いいと思うけどな…」

 ご飯、味噌汁、納豆、焼いた小魚が3尾、牛乳が本日のGランクランチの内容だ。何処の地下労働施設かと思ったぜ。

「ネバネバーネバネバーほらほらそんなに文句ばっか言ってないで!アーン!」

 向日葵は、何の躊躇もなくネバネバに混ぜた納豆を口に運ぼうとしている、アーン?あの新婚の夫婦がすると言う共同作業の事か!いいのか?今してしまって!結婚した時に奥さんに取っとかなくっていいのか?俺!でも結婚できるか分からないし、゛あ゛あーもういったれ!パクッ。

「うん、美味い…」

「でしょー!だ.か.らっ一緒に食べる人が重要なんですよ!純太くん!分かりましたか?…んー美味しいっ!」

「うん…分かりました。」

「向日葵ね…食堂もそうだけど…優劣を付ける学園のやり方ってあんま好きくないだぁー」

「へっそうなの?なんで?」

「だってね、恋愛推奨してるのにポイント制にして優劣なんか付けたらポイント目当ての人が出て来るじゃん、そうしたら本気で恋愛出来ないんじゃないのかなって思うんだ〜」

「まぁ確かな!パンフに書いてあったけど実験的な事もしてるらしいからじゃない?AIとか最新機器使ってるしね!」

「やだー実験嫌いーマッドサイエンティストー」

誰に向けて言っているのだろうか…駄々を捏ねる姿も可愛いぜ。

「だから決めたんだ…ランクとかどうでもいいから、ちゃんと好きになった人と本気の恋をしよって…」

「それって…いいやなんでもない、なんでもない」

「ん?なんでよー言ってよー」

いい子やーこの子なら信じられる、そう思った。そして昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴り、教室へ二人仲良く戻ったのだった。

「よいしょっと」

 俺は、席に着いてから向日葵が言っていた事を思い出していた。あれっ俺の事だよね!恋人候補にロックォンされたって事ですよね!

 苦節十六年やったよ!母さーん!父さーん!俺にも彼女が出来そうだよー!と心躍らせていると後ろのクラスメイトから肩を叩かれた。

そして長方形に折り畳まれた手紙を渡され表紙には、純太くんへの文字が書き込まれていた。これは、聞いた事がある、平成時代に流行ったと言う教室内手紙交換!

なんだろなっ向日葵、純太くん事…好きっになっちゃったの、付き合って…くれる…かな…とか書いてあったらどうしよっ俺困っちゃう〜…いかんいかん平静を保たなければ!唾を飲み込みながら意を決して開けてみる、そこには、向日葵と下校しますか?YESorNOと書かれていた。

そりゃYESに決まってるでしょ!印を付け後ろのクラスメイトに手紙を渡し向日葵の元へ手紙は、戻った。二人は、離れた席からアイコンタクトを交わした。今のスゲー恋人ぽかったへへっへへっニヤつきが止まらない。俺は、また授業が頭に入って来なかった。そして待ちに待った放課後になっていた。

「かーえろ!」

「おっおう」

俺達は、校門を出るまで無言が続いていた。

「どうしたの?さっきから元気なくない?」

「いや…俺こうやって女子と下校した事なくてさ…緊張してるっつうか…」

「ふーん…恥ずかしがり屋さんめ〜このヤロー!」

「そんな抱きつくなって皆んな見てるじゃんかー!」

「いや?」

「嫌じゃないです!はい!」

 潤んだ瞳でそんな事言われたら受け入れるしかないじゃんよー!

「じゃあ向日葵がエスコートしてあげるねっ!」

「へっ?」

 この後、俺は、腕を引っ張られながらファーストフード店、ショッピングモール、ゲーセンを梯子したのだった。人生で一番楽しい一日だった気がする、俺達は、日も暮れた帰り道を歩いていた、そして俺は、こう思っていた、今日が終わらなければいいのに…

「今日が終わらなければいいのに…」

「えっ俺声に出てた?」

「ふふっじゃ向日葵達一緒の事思ってたんだ!以心伝心じゃん!」

 二人の笑い声は、帰り道に響いていた。

「コレあげる!」

「ん?何これ?」

「さっきゲーセンで取ったバケモンのキーホルダー!お揃いだよっ」

「あっありがとう!大切にするよ!」

「良かった喜んでくれて今日は、ありがとうっこれからいっぱい思い出作っていこうね!…じゃあ向日葵こっちだから!バイバイキン!」

「バイバイキン…」

 俺の歩幅は、徐々に大きくなり喜んびが抑えられなくなっていた。いやっフォー!それは、宛ら某人気ゲームのジャンプそのものだった。

 家にたどり着くと枕に顔を埋めていた。

「大好きだー!」

「うるさい!帰って来たんならご飯食べちゃいなさい!」

 ドスの効いた声は、母さんの声だった…

 この日が俺と向日葵の出会いであった。

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