第2話 そりゃご主人様の信用度はゼロよ

 あれから最後の最後の足掻きとして、屋敷の門の前で粘って1時間……。


「うわっ、まじでまだいやがる」

「つか、広間にいた時も思ったが、アイツあんな性格だったか?」


 なんか兵士たちが出てきて、あっという間に担がれ、馬車に乗せられた。


 それから数分後……。


「ふんっ。旦那様からの最後の指示だ。感謝するんだなぁ」


 そう言って、馬車は去っていった。

 降ろされたクルイーナという街。

 

 見知らぬ土地……ついに追放された後の物語が始まったということだ。


 もう好き勝手に生きてやるからな!!


「と言っても……これからどうするかなぁ」


 そう呟きつつ、背負ったバッグの中から膨らんだ巾着袋を出す。


 中身は硬貨。お金だ。

 結構、入っている。


 実は、ユノスの部屋に篭っている時に見つけたのだ。

 多分、へそくりみたいたやつだろう。


 遠慮なく使わせてもらうからな!


 ただ、これで一生過ごせるかといえば絶対無理。

 しかもこのお金は、俺1人が使うわけではない。


 俺は視線を横にズラす。


「メルお姉ちゃん……」

「私から離れないでね、シー」

 

 不安そうに互いに身体を寄せ合う少女が2人。

 

 金髪の方がメル。銀髪の方がシー。


 人の視界に入るということで、今はフード付きのローブを着ている。


 下に着ているのは変わらず、簡素な服と鉄製の首輪。

 その体つきは痩せ細っている。


 そんな2人は奴隷であり、俺の許嫁でもある。


 しかし……。


 追放されたもののユノスは一応、侯爵家の人間。


 伯爵家というと貴族の階級の中では王族の次にくるし、アルベーニ家は国で三本指に入るほどの大貴族。


 ユノスはその家系の三男坊だ。


 それなのに、付き添いの護衛として兵士やメイドを用意するのではなく……奴隷を押し付けるように寄越したあたり、ユノスは周りからも嫌われていたみたいだな。


 顔が良ければ全てよし、というのが通用しないほどコイツは怠惰な生活をしてやがったのか……ったく。


 おかげで無関係な俺が苦労する羽目になったんだぞ!!


「お姉ちゃん……」


 ふと、弱々しい声が聞こえた。

 フードから時より銀髪が見えるのでシーの方だろう。


「お姉ちゃん……私たちこれからどうなっちゃうの……?」

「シー、泣かないの。弱音は極力吐かないようにしないと、幸せが逃げていくわ」


 メルがシーを抱き寄せて、頭を撫でる。

 会話を盗み聞きした限り、2人は姉妹のようだ。


 奴隷になってもなお、姉妹の絆は健在! 感動するなぁ……!!


 と、メルと目が合った。


「……ッ」

「ゔっ」


 心底、軽蔑したような目をしている!!

 

『嫌だあああああ!!』


 玉座という場の床に寝そべり、最後まで駄々をこねていた男。


 しかも、追放されてしまうほどの怠惰な生活を送り、周りから嫌われた男。


 それがユノスであり、俺である。


 そんな男が目の前にいる。

 しかもご主人様で許嫁ときた。


 こんな情けないやつとこれから生きていかないといけないなんて……さぞ、絶望的だろう。


 俺が逆の立場だったら、泣いちゃうね!


「ひっぐ……ううっ」


 ワァ、泣いちゃった!!!


 シーは手で拭いても涙が溢れて止まらないのか……ついにはローブの裾で目を押さえた。


「ぐすん……うゔ……ひぐっ……」

「えと、あのっ」

「ッ、近づかないでください」

「は、はい……!!」


 慰めようと近づこうとしたら、メルに嫌悪の眼差しで見られた。

 

 今の俺じゃ、何をしても逆効果だよな……!


「ひっぐっ……お姉ちゃん……なんで私たち、奴隷なんかになっちゃったのっ」

「シー、泣かないで。……しょうがないでしょ……私たちはなのだから」


 ん? 病持ち? 

 病ということは身体のどこかが悪いのか? 


 だから奴隷になったのか?

 いや、それだけで奴隷に落ちるのか……?


 憶測が飛び交うが……俺が最初にやるべきことは、決まった。


「あの、2人とも……病なら俺が何か力になれるかもしれない」


 俺の言葉に、シーはパッと顔を上げ、期待した瞳をした。


 ただ、メルの方は……。


「貴方は女神からのギフトが貰えなかったと聞きましたけど、それでどうやって力になるのですか? それに、最後まで実家にしがみついた貴方が?」

 

 心底冷えた口調のメル。


 俺は公式な場ではギフト貰えなかった。

 それは事実だ。

 俺、その瞬間は見ていないけど。


 しかし俺は……ギフト。能力を持っている。

 何故かって?


 俺は転生者だ。

 転生者といえば、異世界へ転生する前に必ずイベントがあるだろう?


 そう。女神様との対面だ。


 俺はその時、女神様から能力を貰った。

 それが影響してか分からないが、公式の場ではギフトは貰えなかったのだろう。


「話の続きは別のところでいいかな? とりあえず、宿に行こうか」


 人目が多い街中では能力を使うのに抵抗がある。


 それに、2人も外にいるのは落ち着かないだろう。

 宿なら話がしやすい。


「そう言って私たちを犯すんですか?」

「違うぞ!?」


 即否定するも、軽蔑した目で俺を見るメル。

 やはり俺のことは信用していないどころか、毛嫌いしているようだ。

 

 彼女たちにとって俺の第一印象は間違いなく悪い。


 好感度なんてマイナススタートだろう。


 そこから信頼されるには……口より、行動で見せるのみ。


「お願いだ。俺を信じて着いてきてくれ」


 そう言って俺は……深々と頭を下げた。

 

 頭を下げているから、メルとシーがどんな顔をしているかは分からない。


 でも……。


「わ、分かりました……。宿に着いていくだけですから」

「お姉ちゃんが行くなら、私も行く……」

「ありがとう!」


 こうして最初に向かうのは宿に決定したのだった。


 

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奴隷なら滅茶苦茶に出来ると思っていたんだが…。 悠/陽波ゆうい @yuberu123

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