奴隷なら滅茶苦茶に出来ると思っていたんだが…。

悠/陽波ゆうい

第1話 追放を言い渡された瞬間に記憶を取り戻すパターン

 ある日突然、前世の記憶が戻り……自分が転生していることに気づいた。


 なんてことは、最近の物語では多いだろう。


 前世の記憶を取り戻すのは、いずれも破滅フラグよりも結構前だ。

 赤ん坊や子供の頃とか……今から頑張ればなんとかなるって状況だと思う。


 ところで……。


「ユノスッ! 女神様よりギフトが与えられなかった貴様にはもう価値はないッ! 今日を持って出来損ないのお前をアルベーニ伯爵家から追放し、辺境の地にある《シルバニラ》の領主となってもらう!」

「……マジかーい」


 追放された瞬間に、前世の記憶が戻っても……もうどうにも出来なくね!?



◇◇

 

 次の日。

 大層ご立腹な父上……って上品な言い方は慣れないし、親父でいいや。


 ご立腹な親父が大広間で待っていると聞かされた俺。

 ぜってぇ行きたくなくて部屋に篭っていたが……兵士たちによって無理矢理引っ張り出され、大広間に連れてこられた。


 親父は椅子に深く腰掛けながら、心底呆れた様子で俺を見下ろしていた。


「ったく……昨日は散々駄々をこねよって……。おかげで1日延期する羽目になったわ。少しは反省しているかと思いきや、今朝はちゃっかり朝ごはんまで食べよって……そんなに追放されるのが嫌か!」

「絶対嫌だ!!!」


 本当に嫌なのでハッキリと言ってやる。


 だってまだ、俺がユノス・アルベーニという伯爵家の三男坊に転生したことと、アルベーニ家はこの国で三本指に入るほどの大貴族という情報しか思い出せてないもん!!

 

 てか、なんで追放を言い渡された瞬間に前世の記憶が戻るんだよ! 

 もう手遅れじゃねーか!!


「ふっ、今更後悔してももう遅いわ。お前を追放するのはもう決まったのだ。さっさと荷物を纏めて出ていけッ!」

「ま、待ってください!!」


 いや、ほんと待ってよ!!!


 俺が前世の記憶を取り戻したの昨日! つい10時間前なんだけど!


 記憶が戻った俺がしたことと言えば、寝て起きて、高そうな朝食を爆食いしたぐらいなんだが!?


「大体、公式の場でギフトが貰えなかっただけで冷たすぎだろっ! 実の息子に対してもっとアフターフォローはないのか!!」


 ユノスの気持ちを代弁して言ってやる。


 こういう追放ものって、身内が厳しすぎるんだよなぁー。

 才能やギフトが貰えなかったらすぐに追放追放って……。


 そんなことやっていると、追放ざまぁしちゃうよ! いいんだな!

 せっかく名誉ある伯爵家が落ちこぼれていくパターンだよ!!

 

「……ギフトだけが原因だと思うか?」

「と言いますと……?」


 深刻そうな表情になった親父にただならぬものを感じて続きの言葉を待つ。


「お前の普段の生活を振り返ってみろ」

「ほ、ほう?」


 普段の生活……? というと、元々のこの体の持ち主であるユノスの生活か。

 

 ユノスがどういう人物なのか、どういう生活を送っていたかはまだ思い出せない。


 ただ、ユノスの見た目はサラサラの銀髪で青い瞳はくりっとしていて美少年だ。

 しかも三男坊ときたら、さぞかし甘やかされて———


「稽古はろくにしないッ。実力はつかずスライム退治さえできないッ。舞踏会にすら出ず、朝昼晩グータラ放題……挙げ句の果てにはメイドたちにセクハラ紛いのことをしているッ!」

「え゛」

「よってユノス……貴様は根性叩き直す必要があるどころか、我が伯爵家アルベーニに相応しくない! これ以上優秀な兄姉たちの活躍に泥を塗る前にこの家をさっさと出ろッ」

「……」


 俺は口をポカーンと開けて絶句。


 直後、頭が痺れたような感覚に陥る。

 なーんか……じわじわと思い出してきたぞ……。


 ユノスは――――


『へへっ、稽古なんか嫌ですよー!』

『胸や尻を揉んだぐらいで怒るなんて、器が狭いメイドばかりだなぁー』

『僕は三男坊だから甘えていいんですぅ〜』


 どーしようもねぇ、クソガキだった。


 ユノスの記憶、全部思い出した。


 で……追放されたの、お前の自業自得じゃねーか!! 


 だが、ユノスがどうしようもない怠け者だとしても今度の中身は俺……。


「こ、これからは改心して勉強や修行に励みますので! どうか追放だけは!!」

「ふんっ。口先だけではなんとも言えるさ。大体、改心するタイミングはいくらでもあっただろう? お前ももう15歳……成人の仲間入りだ。子供だからという駄々ごとは通じないし、今後、一切聞くつもりもない!」

「……」


 もう、その通り過ぎて何も言い返すことができない。

 

 今は中身が違うから改心できると言ったところで信じてもらえないだろうし、挽回のチャンスもなさそうだ。


 ……でも。


 勉強や修行の毎日を送りつつ、専属メイドに見直されて、イチャイチャするやつやりたかった!!

 

 でももう手遅れだああああああ!!!


「嫌だあああああーーーーーーーーっ!!!」


 最後の抵抗とばかりに床に寝そべり、ゴロゴロしてみる。


 だって俺、ここから追い出されたら未知の異世界生活なんだが!?


 せめて、この世界の情報をもう少し知りつつ、メイドさんたちとイチャイチャしたい!! 


 美少女と最初からイチャイチャしたい!!


「はぁ……。我ながら情けない息子だ……。さらに酷くなっておる。コイツをつまみ出す前に……おい、そこの兵士たちよ! を連れてこい!」

「「はっ!」」


 親父が呼びかけ、兵士たちが後ろにある大きな扉を開けたと思えば……。


「失礼します……」

「うぅ……」

 

 少女が2人、大広間に入ってきた。

 しかし……身なりが周りと違いすぎる。

 もっと酷い言い方をすれば、場違いな格好。


 汚れた髪に、身体を隠すだけの薄汚れた生地の服を身に纏っている。

 さらに、そこから見える腕は傷だらけで身体は全体的に痩せ細っていた。


 極めつけは、鉄製の首輪をつけている。


 これじゃあまるで———


「名乗れ」


 親父の一声で2人は震えた口をゆっくりと開け……。


「メルと言います」

「し、シーと言います……」


 2人合わせてメルシー(ありがとう)かぁ……って、こんな悠長なことを思っている場合じゃないな!


「この2人は……?」


 察したが、聞かずにはいられない。

 

 恐る恐る聞いた俺に親父はニヤリと怪しげに口角を上げた。


「見ての通りの奴隷だ。奴らをお前の許嫁とする。お前がこれから行く《シルバニラ》はと言われるが……まあ、一応? お前ごときが? 領主にぃ? なるのだ。女は見せ物として必要だろう?」


 許嫁が奴隷ということにも驚だし、言い方くっっっそ腹立つが……。


「待ってください! 今腐った辺境とか言いましたよね!? 俺のこと、もはや捨てるつもりじゃないですか!!」

「ふっ、今更気づいてももう遅い」

「遅くない! 絶対に嫌だ!!」

「ああそれと、お前の許嫁奴隷はあといる。探してこい」

「ハァ!?」


 もう、領地開拓どころじゃねーだろ!

 種馬生活始まったりしない???


 俺は再び、床に寝転がる。


「絶対に嫌だあああああーーーーーーーっっっっ!!!」

「ええいっ! さっさとその見苦しいヤツを連れていけッ! 生き延びたければ、各国にいるお前の許嫁奴隷を集めて腐った領地でも開拓するんだなぁ!」

「めちゃくちゃすぎるだろおおおおおおおおおおおおお!!!!!」


 抵抗も虚しく、俺は兵士たちに無理矢理連れられて、大広間を追い出された。


 さらには屋敷の外へ――――


「いきなり追放なんてあんまりだああああああああああああああああ!!」


 こうして前世の記憶が戻ってわずか10時間後。

 俺こと、侯爵家の三男坊のユノス・アルベーニは追放されたのだった。

 

「……」

「……」


 なお、憐れんだ瞳で俺を見ている許嫁の奴隷2人付きで。



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