第12話貧弱な王太子



「先程、ガーネット嬢とお会いしましたよ」




学園から帰ってきたニレは、部屋に来るとアネモネと会ったと報告してきた。



「こちらへ向かっていたので、ゼニス様は今からお食事ですと、お引き取りしてもらいました」


「あ、そうなの?ありがとね」


「何だか、見るたびにフリント様に似てきていらっしゃる様で、可愛らしい方ですよね」


「…ほほう」



アネモネの事を思い出しながら、ふと柔らかい表情で笑うニレに、私は何かを察した


何だか面白い展開になりそうで、ニヤリと笑いながら彼を見れば、何ですか?と眼鏡を整えながら、咳払いをするニレ・スフェーン



「ねぇねぇ、もしやタイプだったりする??」



私の言葉に一瞬だけ、ぴくっと反応した彼は勢いよく私を見ると、何度も瞬きしながら答えた。



「…な、なにを言っているんですか??」



明らかにいつものニレにしては、分かりやすく動揺している様を、にやけ顔で見ていれば、面白いくらいに何度も瞬きを繰り返す


彼は、動揺すると瞬きする回数が増えるのだろう

この私の勘はあたりの様で、必死に違います!と、答える彼の頬は薄ら赤くなっていた。


間違いなく、ニレはアネモネに好意がある様だ。




「図星か、なるほど」



「か、かっ勝手に納得しないでください!」




うむ、言葉を噛んだ時点で彼がアネモネに好意がある事は明らかな証拠だろう


まぁ、確かに彼女は愛らしい美少女だ


でもそれは黙っていたらのお話で…

話し出したら我儘ばかりでめんどくさいし、性格がいいかと言われれば、正直yesとは言いづらい。


けれど、このニレが彼女に好意を抱くと言うことは、そこまで悪い子ではないのだろう、多分


ニレがどういう経緯で彼女に好意を抱いたのか気になるけれど、これ以上彼に詰め寄ると、答えてくれそうにない


ここは一旦、話を変えてまた後日聞き直すことにしよう




「まぁ、いいや。んで、学校の方はどうだった??」



「...あ、殿下が倒れた事を周りの生徒達が心配していたので大丈夫ですと、伝えておきました。それ以外は特に変わりなく、ですかね」


「そっかぁ、でもやっぱり皆知ってるのね...」



「そりゃそうですよ、学園でいきなり倒れたら何かあったんじゃないかと噂になっています。…なので貧血と言っておきましたよ」



「えぇ!!なんかそれ、すごい貧弱者みたいで嫌…」



「お言葉ですが、一応理由を言っておかないと変に勘繰る輩も出てきますから。変な噂が立つ前に手を打っていた方がいいでしょう」




確かにニレの言う通りだ。

もしや暗殺とか、王族の危機なんて噂が経てば問題になる

学園にいる生徒達を、変に不安にしてしまうだろうし、早めに手を打つのは正解だ、だけれどその理由が貧血なのが引っ掛かるんだ




「まぁ、それもそうだけど…それにしても貧血はダサいなぁ…他になんか無かったの??」



「他にと、言いますと?」



「んー、例えば転びそうになった女生徒を庇った時に、怪我をしたとか、どう?」




そうだ、ヒーローなんだからどうせなら誰かを助けた時に怪我を負ったとかならかっこいい。

ニレにどう?とドヤ顔をすれば、彼は眼鏡をクイっと整えた。



「その女生徒と殿下が恋仲だ、とか噂がたってもいいのなら、どうぞ」


「このくらいで噂立つ?!」



「当たり前でしょう、人気のない場所に2人で居たとなれば、そう勘繰る人も出てきます。もっと御自分の立場を理解して下さい」



「はぁ?そのぐらいで噂立てる奴の気がしれない」



「大体、いつもいるはずの僕がいない時点でアウトでしょう」



確かに、いつもはニレと行動を共にしている私が、その時は1人でいて、しかも女生徒に助けられている時点で、知らない人からすれば何かあると思うのは確かだ



「まぁ、…そう言われれば密会してる様に思われてもしょうがないか」



「貧血が1番無難です」



「…でもさぁ?私を助けたのは女の子でしょ?やばくない?2人でいたのは誤魔化せないじゃん?」



そうだ、結局私を助けたのはヒロインであるカメリアだ

どんなに誤魔化したところで、彼女が私を助けた事は事実

そうなると、2人で居たと言う噂が立つのは変わらないのだから、それって意味ある?と言う顔でニレを見れば、彼は大丈夫だと答えた




「そこは、目撃者もいなかったので居ないことにしております」


「…ん?居なかった事、とは???」



「はい、記憶操作の魔法具で消しておりますが」


「え?!カメリアの記憶も?!」



「カメリア…あぁ、モリオン嬢ですね。彼女の記憶も今日消してきました」


「ええ?!怖!!ちょっとまって、母上にお礼を言う様に言われてたんだけど?!」


「その事でしたら大丈夫ですよ、僕が代わりにお礼を伝えてから消しましたから」


「いやいやいや、意味ある??」


「ええ、無事で良かったですと言っておりましたよ」



「いやいやいや、そう言う意味じゃなくて…」




平気な顔で記憶を消したから問題ないと言う彼が怖い

母からもお礼を言う様にと言われていたので、後日ちゃんと会って話そうとしていた。


けれど、もうニレが彼女に伝えてくれていたらしい

正直な話、ヒロインに会わなくていいのはありがたいけれど、記憶まで消すニレのやり方には正直、引いた


未だに、真面目な顔をして淡々と答える彼が恐ろしい

こんなやつの、表情を変えて見せるアネモネはすごいと思う



まぁ、でも考え方によれば、この若干サイコパス気味な彼が側にいるから、私は助かっている所があるし、とりあえずはこの場は貧血で納得して、感謝しておくことにした。


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