第10話川魚は絶品



「なぁー!この魚後で食おうぜ!」


先程から楽しそうに、川魚を持ちあげる彼は私の従兄弟、フリントだ。


楽し気に次の魚を釣るべく、餌を付け替えている様子は、とても手慣れてみえる


こうしてみればただの、活発な青年にしか見えないが、彼はこの国の王族と親戚、それに加えてこの国には三家しかいない公爵、マーガレット公爵家の長男である


あれから、私達は王宮内にある河辺に来ていた。

何もする事がない私に、フリントが釣りに行こうと提案してくれたのだ、そのおかげでとても楽しめているのだが、先程から嬉しそうに魚を持ち上げ、食べようぜと声をかけてくるところを見ると、フリントもかなり楽しんでいる




「じゃあ、お昼は釣った魚を調理してもらおう」


「おー!それがいい!」



せっかく、二人で釣り上げた魚なのだ、料理人達に美味しく調理してもらおう。



暫く魚釣りを続けた結果、なんと20匹の魚が釣れた。

大きさはそれぞれ、バラバラだけれど、2人で釣ったにしては、沢山釣れたし上出来


お昼にこの魚達を調理する為にと、クリスチャンがカゴいっぱいに入った魚達を、厨房へと運んで行く。

20匹の魚達とは一旦ここでさよならだ、また後で会おう


その後も、時間を忘れて釣りを続行していた私達だったけれど、キリのいいところでメイちゃんが、私達を呼びにやってきた


「失礼致します殿下、お食事のご用意が整いました」


「うん、分かった。フリント行こうか?」


「おぉ!腹減ったぁー!ナイスおチビ!」


「っ!?」


「フリント、メイちゃんが戸惑ってるから」


「あ、悪い悪い!メイちゃんだったな、さんきゅー」


突然、フリントに頭をポンポンされたメイは

、目を開いて固まっていた、反応が小動物の様で可愛いのだが、私は思った。


フリントの行動を見て感じた事は、そう言う事をするから、相手が勘違いするんじゃないのだろうか?

彼の性格上きっと、わざとでない事は分かるけれど、その急なボディタッチは良くない


未だに固まり、戸惑うメイを困らせないでとフリントに伝えれば、彼はやはり分かっていない様で、こてんと首を傾げた、たぶん彼は無意識なたらしだ



とりあえず、彼女に下がっていいよと助け舟を出せば、メイは戸惑いつつも、深く頭を下げて下がっていった


そそくさとその場を後にする彼女の様子は、やはり、小動物の様で可愛らしい


一方のフリントは未だに、何も考えていない様で腹減ったなぁ!と元気よく笑っている、なんだかんだ憎めないやつ


そう言えば、メイちゃんを困らせたことを、本人に謝ったらしいフリントは、その後は先程のように何度か話しかけているが、人懐こいフリントと違い常に困惑気味なメイ。

この2人の様子を、側から見ている私は正直面白い


メイは、気高い公爵家の人間に話しかけられる事に恐縮しているけれど



「よし、行こうぜ!腹減ってしょうがねぇ」


そんな事を静かに考えていた私に、フリントは急かす様に声を上げた


先程からお腹が空いている様子のフリントに、そうだねと軽く返事を返し、私達が釣った魚達が並ぶであろう、ダイニングルームへと場所を移す事にした。






そして、お待ちかねのお昼のランチは、それはもう贅沢な魚料理尽くしだった

華やかに着飾った魚料理見て、更に食欲は増し特に自分達で釣った魚だからだろうか?

今まで、食べてきた魚料理よりも全てが美味しかった。

フリントと共に、黙々と一流のシェフ達が作った料理を堪能した。


また、魚を釣ってシェフ達に調理してもらおう



昼食後はフリントと私の部屋に戻り、オセロやババ抜きなどをして過ごした。

やはり、友達や親戚とこうしてボードゲームやカードゲームをするのは、楽しいもので、気がついた頃にはすでに、外の景色はオレンジ色に染まっていた


時間が経つのも忘れ、楽しんだのはいつぶりだろうか?

前世では友達と遊ぶことより、バイトをして過ごしていたので、こんなにゆっくり誰かと遊んで過ごすのは、久しぶりだった。


ゼニスの記憶でも、彼は常に国の為や王太子として自分を磨く為に必死だった記憶ばかりで、こうやって従兄弟と、楽しく過ごすことが滅多になかった


いつも、遊ぼうと押しかけてくるのはフリントは変わらずだけれど。



「え?もう、夕方?!」


「おぉ?こうゆう時の時間は経つのが早いよなぁ、もう夕方かよぉ」


「分かる、楽しい時間って、あっという間だねー」


「だよなぁ、まーでもお前とこうやってゆっくり遊べて楽しかったぜ、たまにはこうやって楽しく過ごすのも良いだろ?」


「うん、そうだね。フリントが来てくれて楽しめたよ!ありがとう。また一緒に釣りに行こう」


「おぅ!次はもっとでっかいの釣ろうぜ!!いつでも、付き合ってやるよ!お前は明日も休みだけど、退屈すぎてくたばんなよ?」


また、次も遊ぼうと嬉しそうにしている様子にこちらまで嬉しくなった。

こうやって遊ぼうと、言ってもらえるのはありがたいことだ。

今まではする事が沢山ありすぎて、フリントに対して、いつも忙しいと断っていた分、なんだか、それが申し訳なく思えて、次は私から彼を遊びに誘おうと思う


楽しみにしているねと返せば、フリントはいつもの様に嬉しそうに笑った

しかし先程から彼は、チラチラと時計の方をやけに気にしている様で、時間を見るたびに渋い顔している



「うん、くたばらない様に何かして過ごすよ!…ところでさっきから時間ばかり気にしてるけど、帰らなくて大丈夫?」


「あぁ…ほら、夕刻になるとあいつも、学園から帰ってくるだろ?俺が屋敷にいないと、あいつここまで迎えに来るんじゃねぇかなって思ってさ…」



あいつ、とは?と聞こうとしたけれど、学園に通っている子は高等部のフリントと中等部に通う妹しかいない


フリントが苦い顔をしているのには理由がある


妹、アネモネは大のゼニス好きなのだ。

いとこでありながら、ゼニスと結婚すると宣言するほど、ゼニスの事を慕っている


私が読んでいた小説では、ゼニスといい感じのヒロインに嫉妬して、小さな意地悪をする、ちょっとした悪役だった


見た目は愛らしい少女でありながら、ヒロインに対しては意地悪ばかり、繰り返すものだから、小説を読んでた私は、あんまり彼女に好意的ではなかった。


その彼女がもしかしたらここに、迎えにくるかもしれないとなると、正直気まずい 



「フリント。もう帰ったほうがいいよ!」



フリントが苦い顔をするほどなのだから、警戒した方が良さそうだ

実際、ゼニスゼニスと張り付いて離れない記憶がある分、今ここに彼女が来たら、とてもめんどくさいことになりそう


なので、フリントにはお帰りいただいたほうがお互いの身のためだ。



「だよなぁ、あいつが来たら面倒だからな!また、あいつがいない時に来るな!見送りはここで良いから、じゃあな!」



フリントも私の気持ちを察したのか、急いで部屋から出ていった。


フリントの事だからまた、アネモネのいない時にうまく遊びに来るだろうと、心配する事なく彼を見送った




フリントが帰り、また1人きりになった室内は、さっきまでの賑やかな雰囲気はなく、やはり何だか少しだけ寂しく感じる


アネモネが来るからと、早めにお開きしたはいいけど、やはり、1人になると虚しい


だったら、もうアネモネも一緒に、カードゲームでもしたら楽しかったのかもしれないなぁとすこしだけ、後悔










その頃、ちょうどフリントはマーガレット家の家紋がついた自分の馬車へと乗り込もうとしていた。

キラリと輝くマーガレットが埋め込まれた家紋に、王族の馬車にも劣らない高級そうな馬車。


その立派な馬車の外では公爵家の執事が慣れた様に馬車の扉を開く。

フリントは軽く執事に礼を言うと、馬車の中へゆっくりと足を踏み入れた


しかし、中は空ではなく、既に見慣れた人物が乗っていた。

その姿を確認し、フリントは小さくため息を吐くと、ベンチに腰かけ目の前の人物を見れば、かなり不貞腐れた顔をしていた


この人物こそ、先程話していたフリントの妹、アネモネ・ガーネット




「もしかしてゼニスお兄様のお見舞いかしら?」



ひどいわ、お兄様。



小鳥の様に可愛らしい声と、柔らかそうな頬を膨らませながら、怒る妹の様子にフリントは、苦笑いを浮かべた





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